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紅い十字の稲荷様  作者: ファーン
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もみじ葉は 道も無きまで 散りしきぬ 獣の道を 頼みそめてき

目を覚ますと、助六はそれが夢であることをすぐに自覚した。

幼い頃、大婆様から何度も聞いた話である。

奇妙な夢を見て久方振りに思い出したものであるが、しかし、助六はこれを天啓として試すこととした。

このまま衰えていく娘を黙って見守ることを潔しとしなかったのである。

長老に礼を述べ、自分の集落へ急ぎ戻ると、夜を待ち、稲荷の社を訪ねた。

人の手が入っているとはいえ、社が夜の帳に包まれている様は、さすがの豪傑の肝っ玉にさえ応えるものがあった。

それでも助六は、伝承の通り誰にも見つからず、声も発せず、ただ娘のことのみを祈り、独りで夜な夜な参拝を繰り返した。

秋も深まり、山が紅く染まる頃。

ついに百度目の参拝となった。

助六は、それまでに一夜たりとも参拝を欠かしたことはなかった。

いよいよと思い、最後の参拝を済ませたまさにその時のことである。

賽銭箱の中から、ひょっこりと白い狐が這い出てきた。

その光景があまりに異様であったので、若しや稲荷ではないかと注意深く見守る助六であったが、相対して狐はこん、と短く切り返すのみであった。

ただの狐だ。

落胆し、身を翻した助六は、言葉を失った。

そこにはなんと、狐が方円の陣を組んでいた。比喩ではない。寸分狂いなく、それは当然のように、あった。長年に渡り社を見守る鳥居や神木と同格であるかのように...

助六は猟師であるから、狐の生についても多少の明がある。

狐は、群れを作る動物ではない。

ましてや、陣を組むような狐などあるはずがない。

あまりに非現実的な光景に気を取られていると、先刻の白い狐が助六を飛び越え、陣の中央へと着地した。

すると、正に怪奇と言うべきか。

狐たちが、青白く光り出したのだ。

それはあまりに不気味で、同時に幽玄な美しさを讃えていた。

光は徐々に強さを増していく。

助六は目を閉じ、心の中で念仏を唱え続けた。

更に数刻、光が止み、助六が目を開けると、そこには狐面を身につけた人のような異形が立っていた。

稲荷がその御姿を表したのである。

額には紅い十字を讃え、口元は不敵に笑っているようにも見える。

暫時時の止まったような境内であったが、先に静寂を破ったのは稲荷であった。


「ィヒヒ。我コソハ稲荷ノ権化ナリ。汝ノ願ヒヲ叶ヘントス。望ミヲ申セ。」


狐面の奥から聞こえた曇った声は、意外にも年端も無い女のものであった。

助六は声を聞き、混乱の最中にも応えた。


「私は助六と申す。娘が怪に憑かれ、苦しんでいる。どうか助けては頂けないだろうか!」


対して稲荷は、


「ィヒヒヒ。娘ノ伏ス床ノ傍ニ揚ゲヲ奉レ。サスレバ我、娘ヲ癒サン。」


そう言い残し、再び眩い光に包まれて忽然と姿を消した。


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