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あいもかわらず、大仰なバトル施設である。
きっと俺はこの施設を最も頻繁に使っている一人だと思うと、何とも言えない気分になった。
そして予想もしていなかった大誤算は身内の中にある。
俺は…スライムとスケルトンに策を伝えようとすると…決勝のために集まった仲間達がなんだかとんでもないことになっていることに気が付いた。
「な、なんだこれ?」
スケルトンとスライムは、同一の個体だと言うのに猛烈に変わっていたのだ。
スケルトンにいたっては種族名まで変わっている大惨事。
据え置きなら一度電源を落として確かめるようなことだろう。
何が起こったのか?
それは普段ならまず起こらない、友情の起こした奇跡と呼べるものなのかもしれない。
俺の混乱はアイドルさんの実況に飲み込まれて、うやむやに消え去った。
『さぁ戦いの祭典もついに最終局面……。激しい戦いを制し、ここまで勝ち進んだ猛者達をご覧ください!』
アイドルさんの実況も今日で見納めかと思うと、若干の寂しさを感じる。
コメントの乱れ飛び具合が尋常ではなく、今日の対戦の注目度をそのまま数で表しているようだった。
「まったく……こんな、地味目の高校生を観に来て何が楽しいんだか」
俺はぼやく。
白状しよう、これは今からすることへのストレスを少しばかり吐き出しただけだ。
若干テンション低めの俺に対して、対戦相手はまったくそんなことはないようだった。
スポットライトが彼女を照らす。そして歓声に迎えられ、高台からお姉さんは颯爽と登場した。
『おおっとあれは!』
「とう!」
観客に向かって存分に手を振ったお姉さんはプレイヤーの台座の上にダイブ。
猫のようにニャラリンパと宙返りして、降り立つお姉さんは見ごたえがあった。
『さすが今回も派手に決めてくれました! 決勝まで勝ち抜いたコスプレお姉さん! 謎の出場者Xここにあり!』
「どーもどーも!」
さも今気が付いた風のアイドルさんだが、このアクロバットな入場にあんな派手な衣装を着てスタンバっていたのだ。気が付いていないはずはない。
むしろ、すでに打ち合わせ済みだったと見るべきだろう。
「よくやるよ……」
俺、苦笑いである。
こうなってくると俺もなにかした方がよかったかと、少し思う。
それが表情に出てしまったのか、アイドルさんは一瞬俺の方を向いて、手を否定の形に横に振った。
いやいやあんたはやらなくていいから。
そんな声が聞こえた気がした。
そうか、それは良かった。
危うく小学生以来の前回りをさく裂させるところだった。
頭の中は相変わらずわけのわからない事になっていたが、中でもこの試合をどうするのかと問題はその一点のみにしぼりたい。
俺は自分のアイテム欄を確認する。
その中の一つに、爆弾型のアイコンが光っていた。
縁起でもないアイコンだが、これは社長さんから届いたメールに添付されていたものだった。
とりあえず完成したから送ります。これは自分のキャラクターに使用してください。そしてアイテムを使用したキャラクターが相手にダメージを与えることで効果を発揮するよ。でも装備品や武器ではだめだから気をつけてね! 体に直接ダメージを! たぶん人間に戻したキャラクターは行動不能になるだろう。念のために言っておくと君にはいいことなんてまるでない。下手すると誹謗中傷の的になるかもしれない。正直ゲームのキャラクターに同情してこんなことをやろうっていうのは馬鹿げているかもしれないね。勧めた僕が言う事じゃないけど! では健闘を祈る!
「……」
俺は改めて目頭を押さえた。
涙を堪えたとかではなく、頭痛がしたからだが。
また妙な仕様にしてくれたものだと俺は高い天井を仰ぎ見た。
どうせなら、使うだけで当たるようにしてくれればいいのに、そううまくは行かないようだ。
俺はじっと考えた。
そして、肩の力が自然と抜ける。それはここに来て考えが決まったからだった。
「さておじさん、最後の話だ」
『それはさびしいことです。しかし最後と言えばそうでしょう。思えば遠くに来た物です』
「いやいや遠くには来てないから」
軽く冗談を飛ばしあう。
おじさんは努めていつも通りの飄々とした様子だった。
『そう言えば、今回はまだ作戦を聞いていませんでしたな。また勝ちをもぎ取る策をよろしくお願いしたいものです』
「……」
だがここからはいつもとは少し違う。
俺は深呼吸すして、おじさんに今回の方針を伝えた。
「いや、考えはしたんだけど。今回おじさんに伝える策は……なしで」
『はい?』




