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 その日、いつも通りにそびえるビルが、いつもよりずっと大きく見えた。


 中に入るだけでも、脳内ではオープニングが流れているような、そんな気分である。


「いや……エンディングか? 色々終わるかもしれないし」


 思わずため息がこぼれた。


 言い出したらきりがないが、間違いなく今日試合は終わる。


 それだけは確定である。


 思えばよくもまぁここまで勝ち残ってこれたものだと、自分の軌跡に鳥肌が立った。


 何でこんなことしているんだろう?


 何かの間違いでこんなところに立っているが、本当なら俺は今、まっとうにゲーム世界に浸り、デジタルの世界で夏休みを謳歌していたはずなのだ。


 俺はダンジョンに挑むがごとく覚悟を決めて、建物へと歩を進めた。


 半笑いのまま自動ドアを抜けると、やはりいつもの顔がそこにいた。


「なんだか恥ずかしいこと言ってますねぇ? どうもお待ちしていましたよ? チャレンジャーさん」


 見知った顔である。


 ただし今日の彼女は受付のお姉さんではない。


 いつもコスプレではあるものの、スチャッとすばやくマスクを装着する彼女は俺が倒すべき対戦相手である。


 とは思ったものの、俺はいつもと同じ感じで話しかけた。


 肩肘を張る必要など、俺には全くない。


「チャレンジャーって……今回第一回目の大会じゃなかったでしたっけ?」


 俺は軽口をたたく。お姉さんは腕を組んだまま首をかしげて言った。


「細かいことはいいじゃありませんか。いやぁつい。待ち構えていると、優位になった感じしますよね!」


「ラスボス的な感情ですか? まさに間違ってない感じですけどね。 でもいいんですか? 主催者側の関係者が選手として参加するなんて? しかも決勝に残るなんて」


 せめて苦言を呈す。しかしお姉さんはあっけらかんとしたものだった。


「いいんですよ。盛り上がれば何だって。数合わせだとでも思ってください。でももっと驚いてくれるかと楽しみに秘密にしていたんですけど……反応薄いですね?」


「それならメールなんて送らないでくださいよ」


「だって過去の対戦映像でばれたらそれこそ衝撃が少ないじゃないですかー」


 お姉さんはそこだけは不満だと頬を膨らませていたが、妙な展開に慣れただけだ。


 今の今まで素知らぬ顔で、俺の受付をしながら、普通に本選を戦っていたんだろうに。


 まったく性格が悪い。


「数合わせが決勝に来たらまずいでしょうに」


 思わず付け加えると、あきれ顔で返された。


「いいじゃないですか。数合わせだって立派な選手ですよ? そもそも貴方だって数合わせのはずだったんですから人のこと言えないでしょ? どうしてこんなことになったんですか? というか主にあなたのせいみたいなところあるじゃないですか?」


「人のせいにしないでもらえませんかね!?」


 俺は、はっきりと否定する。


 するとお姉さんはやたらと胸を張って笑っていた。


「ハッハッハ。いやいや、あながち間違いでもないんですよ? 私、ついつい楽しくなってしまって。本気出してしまいましたしー」


 若干黒い笑みを浮かべているお姉さんは、サービスを提供する側とは思えないほど生き生きしていた。


 それで実際に本気を出して決勝まで来てしまったというのだからすごい話だった。


「……それはまたすごい本気でしたね」


「勢い余って決勝戦ですよ。めちゃめちゃ怒られちゃいましたけどね! いいじゃないですか。楽しいですよ?」


「そうですね。楽しいですよ。ホントニネ」


 最初から思っていたが、このやり取りは本当に。


 ぶっ飛ばしたいほど愉快であった。


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