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『お疲れさん。今日はありがとう』


 ログインすると、俺を迎えてくれるキャラクター達も大いに喜んでいるようだった。


「いえいえ。私は氷漬けになっただけですし……ねぎらいなら彼らに」


 スケルトンは頭を投げて指先で回し、スライムは見たこともない三角錐に変化している。新技らしい。


『……これはどっちも喜びを体を張って表現しているんだよな?』


「……ええそうだと思いますが」


 モンスターの喜びの表現もなかなかユニークだった。


 ここまで彼らとの付き合いも濃いものになるとは思わなかったが、俺も彼らのプレイヤーとして、言うことは言っておこう。


 コホンと咳払いをする。改めて感謝をこめて俺は言った。


『ここまで勝ってこられたのは君たちのおかげだ! 存分に喜んでくれ!』


 しかし彼らはぴたりと止まって俺を見る。


『なに?』


「いや、そういえば、肝心の我が神は。戦いに消極的だったことを思い出しまして。よろこんでいただけるとは意外です」


『うーん。まぁ確かに』


 考えてみれば、最初からここまで随分しぶしぶやってますという雰囲気を出し続けてしまったものだ。


 しかし改めて聞かれれば……。


『まぁ。うれしいわな!』


「それはよろしゅうございました」


 ここまでやれるだけのことはやってきた。そして次は決勝。


 妙なしがらみもなく、存分に楽しむべきだろう。


『では早速、決勝のお知らせが来た! みんなで観ようと思ってさ!』


 俺は画面を全員で見える様に開いた。


 ゲーム内に現れたディスプレイには決勝のお知らせとでかでかと書いてあった。


 縁取りが点灯しているのが、やや安っぽい感じである。


 そこで俺は、お知らせとは別に、なにかデータが添付されていることに気が付いた。


『ん? なんか動画がくっついてる』


「動画ですか?」


『対戦相手情報……だって。なんだ? 今回は気前がいいな』


『じゃあ、せっかくだから観てみようか?』


 動画を再生すると、それは勝利の瞬間だった。


 歓声の中で称えられているのは、これまた今まで以上にとんでもない面子だ。


 一人は黒い鎧をまとった女騎士と巨大なドラゴン。


 見るからに強そうなメンバーである。


 俺はここまで来ると乾いた笑いが止められなかった。


『ドラゴンってこいつはまた強そうな……負けたな』


 俺はナハハと笑い、スライムもスケルトンも楽しそうにケタケタプニプニ笑っているらしい。


 笑っているとわかる所が、ここ最近の付き合いの成果といった所だろう。


 だが動画が進み俺はぎょっと動画を二度見した。


 そこには見慣れた人物がコスプレ姿で映っていたのだ。


 そして突然アップになる。


 相手選手は×印のマスク付の顔でにっこり手を振っていた。。


『どうもこのたびは、決勝進出おめでとうございます。貴方との出会いは、今思えば運命だったのかもしれません……。しかし! 手は抜きませんよ? はっきり言って実力は目覆うほど圧倒的です。それでもかかってくるというのなら、お待ちしております。それでは決勝の舞台でお会いしましょう!』 


『……は? これって受付のお姉さん?』


 動画の最後に映っていたのは妙な仮面はしているものの、どう見ても受付のお姉さんだった。


 そして俺はどこまでもあの受付のお姉さんの手のひらで転がされていたことを知るのである。


 痙攣気味の眉毛をどうにか押さえて俺は呟く。


『……あんにゃろめ。大会に出てること、だまってたな? らしいことを言いおって』


 なるほど、次の戦いは気軽に行こうと思ったが、全力で行くとしよう。


『それでは最後に、私のメンバーを紹介しましょう。まずはドラゴン。作中最強の呼び声も高いモンスターです。大型でそうやすやすとはやられませんよ? そして……私の切り札、魔神アリーヤです。すべてがなぞに包まれたレアモンスターですよ? 彼女の能力は決勝を楽しみにしておいてください!』


『なぞって……ヒントですらない』


 俺は仲間達を振り返る。さぞやニヤニヤしていると思っていたのだが、そこで初めて、メンバーの中で一人だけ笑っていないことに気が付いた。


『どうしたの? おじさん?』


「……」


 おじさんはただ一人ただ事ではない様子で、動画を見ていた。


 受付のお姉さんが癇に障ったのだろうか?


 彼の表情はただただ鬼気迫っている感じだった。


 俺達も雰囲気を察して、笑いを引っ込め、押し黙る。


 すると突然おじさんは俺に頭を下げたのだ。


 いきなりの予想外の行動に、わけもわからず慌てた俺だった。


「……すみません。我が神よ」


『は、はい?』


 改めて俺を神呼びし始めたおじさんに身構えた。


 いったい何事だろうと尋ねるより先に、おじさんは重い決意を秘めた瞳で俺を見て――


「無理は承知と、わかっています。だがそこを押してお願いしたい」


『な、何でしょう?』


「次に私達が剣を交える相手を、あの女騎士を――殺す事は出来ないでしょうか?」


『……はい?』


 未だかつてないほど真剣なおじさんに俺は瞼を閉じ、深呼吸する。


 そして思った。


 どうしよう、思ったよりも相談が重すぎる。


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