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試合が終わり。ふらふらしながらステージを降りると、社長さんから声をかけられた。
「まさか、こんな方法で勝つとは……スライムすごいな。今度僕もパーティに入れてみようかな?」
「聖水を使えばよかったのに」
「そんなこと言って、漬かったら使ったで、どうせ鎧の下に隠れてやり過ごすんだろう?」
「まぁそうですけど」
社長さんは負けたと言うのに、試合が終わるとすぐに握手を求めてくるのだから、さすが大人である。
子供っぽいと思っていたが、やはりそこはある程度の余裕を感じさせられた。
俺は握手に応じるが、なんとなく意外に感じて聞いた。
「すいぶんさっぱりしてるんですね」
「ああ、まぁ悔しいけどゲームだからね。面白い勝負だったよ。君とはまたいつか戦いたいな。怖いもの見たさで」
「……怖くありませんよ?」
そんな心外なと、俺は口をとがらせる。
社長さんは苦笑いだったが、言っていることは的を射ていた。
「いやいや、君の勝ち方はどこかホラーじみてるよ。僕はホラーも結構好きでね」
「俺は苦手ですが」
「それは……意外だ」
冗談を言いい、お互いに笑い合えているのが不思議である。
ただ、社長さんは別れ際こんなことを言った。
「じゃあ、何かあったら連絡くれよ。ゲームの中ででもまた会おう」
「はぁ……どうも」
俺は感心して呟く。そして、ああゲームの中でもちゃんとつながっているんだなと妙な納得の仕方をしていた。
それにしても、このさわやかさはさすが社長だった。。
だが……まぁ勝てると思っていなかったのは何より俺だったようだ。
俺は家に帰って、部屋の天井をぼんやりと眺めて、にたりと笑う。
「勝った……ここまで無駄に長かった」
そして、時間差で、勝利の余韻が込みあげてきた。
本当に俺は勝ったらしい。
自分でも驚きだったが、俺は勝利がうれしいようだ。
未だに信じられないが、俺の端末が震えて、自分に届いたメールを確認すると決勝のお知らせとある。
みんなで勝ち取ったそれを、俺はここまで苦楽を分かち合った仲間達と一緒に見ることにした。




