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「フフフ……終りね」
『最後は思ったよりも正統派な攻めだったね。スライムアーマーには驚かされたけど、完璧な対策とはいかなかったようだ』
アイスクイーンは勝ち誇る。
スピーカーの向こうの社長さんも、まるで勝利が確定した風だ。
俺は自分のディスプレイをじっと眺めて――彼につながっているだろうマイクに向かって、ぼそりと一言呟いた。
『まだ勝利宣言には早いよ。言っただろ? ――今日の主役はこいつらだって』
俺は嗤う。
笑い交じりの呟きは確実に相手に届いただろう。
『! 後ろだ!』
社長が叫び、アイスクイーンはスケルトンの方を振り向く。
「……!」
『残念。前でした』
しかしそいつは逆である。
アイスクイーンがスケルトンに意識を移したその瞬間、突如として吹きだした緑の濁流がアイスクイーンの背後から襲いかかった。
「!!」
なかなかの反応だったが、気がついてももう遅い。
雄叫びを上げたまま固まっているおじさんのその口は、完全に彼女の結界を抜けていた。
そして緑色の液体は、おじさんの大きく開けた口から飛び出したのだから。
顔に張り付いてしまえば、後は安心の攻撃力である。
「……!」
悲鳴を上げる間もなくモザイクの嵐が吹き荒れたのはまさに一瞬の出来事だった。
『は?』
社長さんのきょとんとした音声が聞こえる。
『え?』
外の会場では、あっけにとられたアイドルさんの声が上がった。
静かになった会場。
モザイクの嵐が消え去ると、勝利の二文字は俺のものだ。
『何が起きたんだ!』
うろたえる社長さんだが、何のことはない。
俺の仕込みが、最後まで運よく動いてくれた。ただそれだけのことだ。
『なにって……最初に飲んだあれはスライムの一部だったんですよ、ポーションとかではなく』
『は?』
『おじさんのビンに入っていた奴も、スライムだったんです。両方』
『す、スライムを飲んだのか……あのおじさん、って言うか飲ませたのか!』
『そう言う事です』
凍結防止策、第三弾。人体で保温。
できれば使いたくない手だった。だって見た目がひどすぎる。
本体さえ近くにいれば、スライムはある程度自在に体を動かすことができる。
これもまた観察のたまものだ。
社長さんもこれにはしっかり驚いてくれたようだった。
『君は本当にとんでもないことさせるな!』
『あんたに言われたくないですが!?』
社長さんの視線の先では、大きく口を開けたおじさんの氷像が、未だ輝いていたのだった。
『どっちも動くかは本当に賭けでしたけど。まぁうまくいきましたねなぜか』
どろりと小さくなったスライムが、スケルトンの頭の上に這い出て、ぴょこんと飛び跳ねる。
『ああ、これは参った……やっぱり肝が据わっているよ君』
『……そんなことないよ?』
社長さんが漏らしたセリフが何よりの勝利の証しだが、まぁちゃんと聞いておこう。
『……しょ、勝者! ヤシロチームです!』
若干遅れて、アイドルさんのアナウンスが俺の勝利を告げた。




