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 聞き間違えたかと思った俺は、笑顔を凍りつかせたまま聞き返す。


「……マジですか?」


「ええ……マジですね」


 残念ながら聞き違いではなかったようだ。


いっそ開き直った方がいいと厄介な境地に至ったらしいお姉さんは、盛大にお祝いモードだ。


 俺の手を無理矢理握り、ぶんぶん振り、まくしたてる様にフォローを入れてくる。


「おめでとうございます! 貴方はテラ・リバースの全国大会に参加する権利を得ました! さらにパソコンがない環境でもキャラとお話しできるカード式立体ディスプレイも無料でプレゼントですよ! わぁいやったね! 君ってついてるぅ!」


 声が大きい! 周りの人見てるから!


 しかし大会参加など無理ってものだろう。今の一部始終を見ていただろうに。


 だいたい今始めたばかりの相手を大会に出すと言う抽選がそもそも何かがおかしいだろう。


「……俺のメンバー。おじさん一人なんですけど? 知ってますよね?」


 感情のまったく乗っていない声で言う俺。


「な、何とかなります! メンバーはこれから集めればいいじゃないですか! 三人まで登録できるんですよ! ……時間はあんまりないですけど」


「……人が多くて、これ以上は厳しいのでは?」


「いえいえ! 通常プレイでも仲間集めは出来ますし! それに工夫次第でドラゴンだってやっつけられる! テラ・リバースはそんなゲームなんですよ! 私もやってますけど、面白いですよー? あっ、これ、こちらで登録した方限定のTシャツとゲーム内で使えるポイントなので! シリアルナンバーを入力してくださいね!」


「ちょ! ちょっと! 困ります! マジで困りますから! 断ることは出来るんですよね!」


 まくしたてるお姉さんと、焦りまくる俺はさぞかし目立っていた事だろう。


 しかも今日は人が多い。その注目度はかなりのモノのようだ。


 人の目が集まってきていることに気が付いて、小声になった俺達は、今度はひそひそと話しあう。


「あの……全国大会って何するんですか?」


「パーティメンバーを揃えて、3対3で戦うんですよ。ちなみにですね、抽選で一等の選手が戦うのは……」


 大した説明もない内に致命的に嫌な予感のする前振りの後、ゆっくりとお姉さんの視線が動くのを俺は咄嗟に目で追って―――。


「あちらの方です」


「……らしいですね」


「君が対戦相手の人みたいね。よろしく!」


 ピタリと視線がかち合ったのは、とても目が大きいキラキラした人だ。


 素敵な笑顔がまぶしくって、俺には光が強すぎた。


 そのオーラはまさにアイドル級である。


 そりゃそうだろう。掛け値なしの本気でアイドルなんだから。


「……だう」


 俺は勢いに完全に負けてうめく。


 テレビ画面なんかよりもずっと近くで、彼女は神々しい営業スマイルを振りまいていた。


「対戦相手は決まるまで時間が掛かると思っていたんだけど。こんな偶然ってすごいと思う」


「は、……はぁ」


 俺は差し出された手を、何も考えずに握り返す事しか出来なかった。


 喉がどうしようもなく乾いた。


 こうなってしまった原因は明らかである。


 単純に騒いでいた自業自得の部分もあるだろうが、先ほど目に納めた電光掲示板には、俺の情報がでかでかと出ていたんだから。


 クソシステムがいらない所だけスピーディーに俺のメンバーを紹介し、キャンペーンの当選通知とその内容を電光掲示板ででかでかと宣伝してくださったらしい。


 うんえーーーい!


 文句を叫べるのは心の中だけだ。


 背中の辺りが鳥肌でむずがゆく、じんましんが出てるんじゃないかと思った。


 こんな状況下で、断れるような胆力なんて持ち合わせちゃいないのがこの身の不幸なのだろう。


「それじゃぁ、よろしくね!」


「いや、あのですね……」


「みんな! 彼の事も応援してあげてね!」


「ハ、ハハハ、ハハハハ」


 パシャパシャパシャとリップサービスに焚かれたフラッシュは、俺に向けられているのと同義である。


 俺は頭の中が真っ白になった。


 それから「じゃあね!」と、嵐の様に去ったアイドルさんと共に人の波もまたはけてゆく。


 後に残されたのは慣れない人ゴミにもみくちゃにされて、修行僧のような苦悶の表情を浮かべた、哀れな一般人だけだ。


「……」


 そんな俺に恐る恐る声をかけて来たのは、受付のお姉さんだった。


「あ、あのぅ……ちゃんとキャンペーンの拒否はできたんですけどもぉ」


「……今ので、出来れば出て欲しいとか? 言わないですよね?」


「察しが良くて素晴らしいですね! 最近は情報の拡散早いですしー……」


「マジで言ってますか?」


「……残念ですがマジでです」


「そうですよねー……」


「お客様!?」


 俺は言葉をなくして、カウンターにくずおれた。


 なんだか大変なことになってしまった。だけど一つだけわかることがあった。


 わからないことだらけだが……これだけはものすごくはっきりしている。


 俺は顔を上げ眼を瞑り、ふっと軽く笑うと受付のお姉さんに訴えた。


「かませじゃねーか」


「べ、別に負けてくれなんて言ってませんし!」


 ぶんぶん両手を振って無実を訴えるお姉さんだが、俺的には有罪である。


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