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 解説しよう。スライムアーマーとは。


 スライムの弾力あるボディーが衝撃を吸収、スケルトンの防御力を底上げしつつ接近戦において相手を溶かす食欲旺盛なアーマーだった。


 だがこのアーマーの真の有用性は、その断熱性能にあった。


『どういう事でしょう! スライムがくっついていると言うのにスケルトンは平気なのでしょうか! って言うか怖い!』


 驚いたアイドルさんのアナウンスが響いていたが、ゼリー状のコーティングを施されたスケルトンは確かにちょっと怖かった。


 だが、今はその効果にだけ目を向けてほしい。


『スライムだって食べる物と食べないモノの区別くらいできるさ』


『本当に? チートじゃないの?』


『失敬な! 観察と練習のたまものだ! 結構うちの子は賢いんだ!』


『脳みそなんてなさそうじゃないか』


『……まぁそうだけど』


 社長さんとの会話も弾んで、つい本音が出てしまった。


 いやいや、スライムが賢いのはこの戦法がすべてを語ってくれている。


 スライムの氷結防止はきちんと機能し、手に持った炎の剣も鎧を伝って熱を持たせ続けている。


 完全に一瞬で凍りつきさえしなければ、スケルトンのパワーなら少々表面を包む氷くらいならば簡単に砕けることが証明された。


 カカカカカ!


 スケルトンが躍りかかると、アイスクイーンは背後に飛ぶが、そう簡単には逃がしはしない。


 どう見ても美女に襲いかかる重装甲のスケルトンは悪役にしか見えなかったが、悪役上等だった。


「ぐ!」


 一打、一打、斬ると言うよりも殴りつけ、剣を押し付ける様に防御を突破するスケルトン。


 思った以上に優勢なスケルトンは炎の火花がもう数十は弾け、完全にアイスクイーンを防戦一方に追い込んでいた。


「調子に……乗るなぁ!」


『! 下がれ!』


 とっさに俺は注意を促す。


 地面に直接たたきつけられた一撃は氷の槍になって飛び出した。


 ギリギリの所でスケルトンは跳びのくが、危うく串刺しになる所だ。


 それでも距離を開けられてしまった。


 俺は眉をひそめたが、欲をかくのはやめておいた。


 戦えることが分かっただけでも良しとしよう。


 後は、踏み込む根性と気合だけだ。


 勝ち目が見えたと思った。


 しかしここで、言葉をかけてくる社長はなかなかいい間の計り方をする。


『こらこら、あまり汚い言葉を使うものじゃないよ』


「シュウ様……しかし!」


 社長の言葉は自信に満ち溢れていて、今の状況をどうにかしそうないやな印象を俺に与えた。


『もっと冷静に。今のままでも足止めできなくても、ダメージは確実にあるはずだ。それに……君の魔法はこんなものじゃないだろう? 』


「……はい、お任せください」


 これだけのやり取りでアイスクイーンの声から焦りは消えた。


 俺達にはあまりない、時間をかけた信頼関係を感じる。


 それは、彼も間違いなくこのゲームのプレイヤーだと感じさせるには十分だった。


『だけど好機だ! 畳み掛けろ!』


 俺の指示に従って襲いかかるスケルトン。だが数歩進んだところで、踏みとどまったのは完全にスケルトンの独断だった。


『どうした!』


 叫んだものの一瞬遅れて俺も気がつく。


 アイスクイーンの周囲に張り巡らせている魔法が、密度を増している事にだ。


 効果範囲が完全に目視できる。


 そして範囲が狭められた事で何が変化したのか俺も察していた。


『あんにゃろ……こんな器用なことまで』


 アイスクイーンの背後にニヤつく社長の顔が見えた気がしする。


 スケルトンも危険性を見抜いたからこそ、あそこで止まったのだろう。


「私を本気にさせた事を後悔なさい。……あなた達がさっきの間合いまで近づくことはもうないでしょう」


 魔法の結界は範囲が狭くなった分、密度が確実に濃くなっていた。


 おそらく威力も上がっているだろう。ここまで器用に範囲を調節できるとは思わなかった。


 そして上乗せされた冷気は今までが大丈夫だったからと言って次も大丈夫だと断言できない。


 白い冷気に包まれたアイスクイーンはまるで吹雪の竜巻である。


「でもまぁ……出来る限り近づくしかないんだよね」


 俺にできることといえば、プレイヤーの動きに注意することだけだ。


 はたしてスケルトンはあの中でもまだ、動きを止められずにいられるのか?


 一瞬ためらった俺は、仲間の姿を見て自分のふがいなさに奥歯を噛みしめた。


 スケルトンは前のめりに剣を構え続けていたのだ。


 逃げる様子はみじんもなく、スケルトンもスライムも、もう覚悟は決まっているようだ。


 スケルトンのこれ以上ないほど細身の背中が頼もしく見えた。


『たぶん、これがラストアタックだ……』


 俺の言葉に、スケルトンは頷く。


 そこで俺は大きく深呼吸して息を止め、そして叫んだ。


『やってやれ!』


 スケルトンはカチリと頭蓋骨を傾け、相手をそのくぼんだ二つの目の穴で捕え、駆け出す。


「その度胸は認めてあげるけれど……もう遊びは終わり。骨の髄まで氷漬けにして上げましょう……」


 ここからはもう動くつもりもないのだろう、アイスクイーンはその場から動こうとはしない。


 本気になったアイスクイーンの結界に、スケルトンは炎の剣を突き出して、今、斬り込む。


 カカカカカ!


 一歩その結界に踏み込んだ瞬間、白い輝きが先ほどの比ではなく、殺到する。


 視界が開けた時、俺は思わず顔をしかめた。


「……まさかザコがここまでやるとはね。いつかの言葉を撤回するわ。なかなかやるじゃないの」


 微笑むアイスクイーンの当然という顔が憎たらしい。


 スケルトンの刃は、アイスクイーンの目前で止まっていた。


 後ほんの数センチ。


 ピクリとも動かない炎の刃は白く霜が降り、体は氷の牢獄に閉じ込められていた。


 プレイヤーの補助がなかったため、まだやられてこそいないが動けないのでは意味がない。


『……だけど。まだ終わりじゃない!』


「その通り! はぁああああああ!」


「!」


 ただし、スケルトン自身がもう動けないとしても、まだ望みは断たれてはいない。


 決死の叫び声が響く。


 もう一人、頼りになる仲間が俺達にはいる。


 まさに閃光の様な一撃は氷の結界を貫いて、背後からアイスクイーンを襲ったが、彼女達の氷は閃光すらもさえぎるのである。


「……そうでした。まだ貴方もいたのね、忘れてたわ」


「……もう少し長く忘れていただければよかったのですが。貴女の喉笛を貫けたものを」


「それは無理よ。私ってね? 身持ちの固い女なの」


 プレイヤーは反応していなかったが、それでも生身のおじさんの動きを止めるには十分だった。


 おじさんは一瞬で凍りつきはせずにじわじわと足元から氷に覆われてゆく。


 アイスクイーンは完全に勝利を確信しておじさんの頬を撫でた。


「どう? 悔しくもないでしょう? 当然の結果なんだから」


「……ああああああ!!!」


「ではさようなら」


『……』


 バキバキと凍りつくおじさんは雄叫びを上げた壮絶な顔のままで凍り付いた。


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