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『大変なことになって来ました……。食品アイテムを目くらましに使ったヤシロ選手。激しい戦いから一転してのこの静寂。まったく動く気配はありません』
ライラさんの実況が、今の状況を説明してくれる。そしてその通り、邪神は全く動く気配がなかった。
向こうは邪神なんて言われている邪道のゲーマーだ。むしろ今までの方がおかしかった。
「慎重に、慎重に行こう」
本来はこういうのがあいつの本来のやり方なんだ。
こちらの好みに合わせたシュチエーションを用意して、裏切ることで冷静な判断を出来ないようにしているに違いない。
邪神が動き始めたのだ。僕は改めて気を引き締めた。
前評判が本当ならここからが本番だ。さっきの一騎打ちで仕留められなかったことが悔やまれる。
僕はゴトウに回復薬を渡す。ゴトウは飲み終わったビンを地面に叩きつけ、万全の態勢を整えた。
「相手のやり口は、知ってる。慎重にね」
『――これだけ広いフィールドなんだ。使わなけりゃ損ってもんだ』
ゴトウも闇雲には追わず、注意深く周囲に目を向けてくれている。
さて、どんな小細工をしてくるのか?
一回戦は落とし穴だった。
まったく人をおちょくった戦法だが、突っ込んでいくとまずそうだ。
何か向こうから仕掛けてくるかと思ったが、依然として全くと言っていいほど動きがないのが不気味だった。
『……来ないな。やっぱ待ち伏せじゃねぇか?』
「……そうだね? ならこっちから行って様子を見ようか?」
『だな! そっちのが面倒がなくていい! 元々待つなんて性に合わねぇ』
ゴトウはそういうと、フィールドを慎重に進み始めた。
だがなかなか相手の姿は見つからない。
ピン!
その時変な音がして、上を見上げると地面が震え、岩が崩れて落ちて来た。
『うお! あぶねぇ!』
このがけ崩れは明らかにトラップだ。
巨大な岩が斜面を転がり落ちてくるのを、慌てて回避する。
「地形を利用されたね。ようやく邪神っぽい戦い方をしてきた」
『面倒くせぇ』
何とか躱すが、土埃でタダでさえ埃っぽいフィールドが輪をかけて視界が悪くなる。
いつの間にこんなものをとも思ったが、考えてみれば準備する時間は稼がれてしまった。
例えばゴトウとの決戦場を作っている間とか、ルールを決めている間とか。粉塵爆発とか。
……やられた、最初からあいつらはこうするつもりだったんだ。
そういえば、おじさん以外のメンバーはあまり姿を見なかった。
手に持っていたハンマーといい。攻撃力を上げるというよりも、あれは狩り用のアイテムを禁止にされて、自分で作りやすくしたんだろう。
今更わかってもしょうがない。
トラップに気を取られながら、僕らは次に穴が地面にいくつも空いているのを見つけた。
「……なにこれ?」
『さぁ? なんか意味があるんじゃねえの?』
「だろうね……」
この中に隠れているのか? そう思って穴を探してみると――ただの穴だった。
土だらけになって地面から這い出るゴトウ。
『……いねぇ』
「ご苦労様……」
この辺りで冷静な判断力など無くなっていた。
ゴトウはいらだち、僕もいいアドバイスが出せない。
ただでさえ死角の多いステージである。
巧みにこちらの視線から逃げ回っているのか影すら見えず、まともに戦う気がないとしか思えない。
これのどこが決闘だと、叫びたいのを僕はどうにか堪えていた。
一気に畳み掛けたいと言うのに、巧みに隠してあるトラップに、無数に開いた穴。
それっぽい隠れ場所に、むやみやたらと撒かれた痕跡。
時間ばかりやたらと消費する。
逃げたようにも見えるし、隠れているようにも見える。
ゴトウは全身泥まみれになりながらフィールドを探し続けたが……。
『ちくしょぉぉぉ! どこにいきやがったぁぁぁ!!』
ブーーーー。
無情にも試合終了のブザーが鳴る。
『し、試合終了時間です。勝者……ヤシロ選手』
ライラさんの美声で告げられた勝者はブザーよりもずっと無慈悲だった。
『「……えぇー?」』
タイム……アップ?
勝負は分けもわからないまま決着した。




