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「やっちまった……」


 思いっきり挑発してしまった。


 しかも小学生相手に。


 これで、この作戦が成功した暁には、邪神の有名は更に轟くことになるだろう。


俺は後悔とも、うまくいった喜びとも違う複雑な心境だ。


 これじゃあ、本当に邪神ヤシロだ。


 おじさんもあまりの露骨な挑発に呆れ笑いだったが、この相手にはわかりやすいくらいの挑発じゃないと意味がない。


 予想は当たり、相手はやる気十分だった。


 現在、決闘に丁度良い開けた場所を準備中だ。


 ごつごつしていては戦いの妨げになるからという理由で、おじさんによって所々にある大きめの岩を撤去までする念の入れようである。


 時間をそれなりにかけ、準備された決闘の舞台は、運動会前の運動場程度には整備されていた。


 ルールは簡単。お互いに代表を出しての1対1。戦闘不能になるまで続け、白黒はっきりさせようと言うものだ。


 ひとしきりバトルフィールドを整え終ると、俺は小学生に言った。


「さてこんなもんでいいだろう。どっちが強いかはっきりさせるのには最高だろう?」


 なるべく自信がある風に、嫌な奴風に言うのがいいだろう。


 特訓の成果と言ってしまえばそうなのだが、嫌な成果だった。


 しかしおかげで、小学生のイラ付き具合は相当のものだ。


『もういいんじゃない? 戦う場所作りなんてやんなくてもよかったのにさ。ゴトウはどんなところでも戦えるから』


「こっちがこまるのさ。家のおじさんの戦い方はフットワークが命だから、そっちだってあの石ころ一個あったから負けたんだーなんて言い訳はうんざりだろ?」


『ふぅん。大変だね弱いと』


「そう言う事。涙ぐましい努力のおかげで勝利がやっと顔を出す。今日もね」


『……言ってくれるじゃん』


 残っていたオオカミ男の方も素直に引っ込んで、決闘の準備は整った。


 こっちには観戦はいないが、きちんと提案通り一対一の舞台は整った。


 柔軟体操に念入りに時間をかけたおじさんはすでにフィールドに出ていたゴトウさんの所にゆっくりと時間をかけて進み出た。


 おじさんは肩から腕をぐるぐる回しながらゴトウに笑いかけていた。


『いやいや、お待たせして申し訳ない。年を取ると体が硬くなっていけません』


『かまわねーさ。存分に準備でも何でもすればいい。後で負けた言い訳にされてもつまらねぇ」


『そんなな事はしませんよ。ただし始まってからのことは保証しませんが』


『上等だ。小細工ごと叩き潰してやる』


 ゴトウは本当に一対一なのか軽く確認して、そうだとわかると満足げにおじさんを睨んで白い歯を見せた。


『いちおう確認しておきましょうか? いいのですか? わざわざこちらの提案に付き合う義理はないと思いますが?』


『ここまでコケにされたら引き下がれねぇだろ? おっさん』


『……そうですか。気前が良くて助かりますよ』


 剣を軽やかに振り、構えるおじさん。


 ゴトウは自慢の愛刀を一度大きく振り回して、砂塵を巻き上げる。


『いくぜ! 叩き潰してやるよ!』


『さぁ……それじゃあ始めましょうか。”我が剣は、誓いと共にある”』


『なんだいそれ?』


『なに、ちょっとした願掛けですよ。真剣に戦う時のおまじないというやつです』


 しかしそこで思っても見ないことが起こった。


 おじさんがレイピアをゆっくりと高く掲げ、大声で叫んだのだ。


『我が神よ、申し訳ない少しだけ私に時間をいただけませんか!』


 俺はかなりぎょっとする。こんな会話は予定にない。


 挑発の一環かとも思ったがおじさんは本気のようで、俺は何秒か考えた後尋ねた。


「……どのくらい?」


『ざっと三十秒ほど』


 おじさんはにやりと口元を歪め、レイピアの切っ先をゴトウに真っすぐ向けて言った。


 俺はいつかのゴトウとの会話を思い出す。


 あ、おじさんこの間言われた事気にしてたよ。


 思わず笑ってしまいそうになったが、口も余を緩めるだけにとどめて、返事を返す。


 これはゲームだ。


 そしてやりたいと言うなら拒否しようなどとは思わない。


「了解。頑張んなよ」


『かたじけない』


『はっ! 上等!あんたの本当の実力拝ませてもらおうか?』


『実力も何も私は名も無い戦士ですよ』


 ゴトウは心底楽しそうに、そしておじさんは何を考えているのかよくわからない微笑みを浮かべていた。


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