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「……」
それから俺は待った。
待っていたら退屈なので専門外の事も考えたさ。
例えば……それはステージで騒いでいる女の子についてとか。
残念ながら、椅子に座っている今は、ノッているファンの尻しか見えないが、これだけ熱狂しているのだ、さぞかし魅力的なのだろう。
あれだね、アイドルさんも大変だよね。この暑い中、歌なんて歌ってるし。
ここでさえ暑いのだ。あのステージの上はさぞかし数えきれないほどのライトと熱視線と、シャウトで熱の渦になっているに違いない。
その上、歌い終わったら登録だろ? 君よりも先に登録を開始した俺でさえ閑古鳥が鳴いているのだし、彼女が来た事でファンが殺到すると言うなら、いつ来ても中々登録は出来はしないだろうと思う。
『ありがとう! みんな!』
スピーカーから女性の声がした。
あ、歌終わった。アイドルさんが動き出したことで隊列が乱れ、俺にもチラりと様子が見える。この後ステージ衣装のまま登録に直行するらしい。
しかし前もって登録を開始していた俺からすれば、ご苦労さんって感じだった。
頑張って下さいよ。まぁ、この中で現れたキャラを最初にいただくのは俺ですがね。
しかし三分もしないうちに向こうの方で何かザワリと湧いているのが聞こえたのは……幻聴じゃなかったのだ。
ありえないことが起こったのではないか? そんな漠然とした不安で冷や汗が頬を伝う。
だと言うのにそのありえない事を、受付のお姉さんはさも当然のように口にする。
「あ、向こうの登録が終わったみたいですね」
「……はあ!? 俺の方はまだ反応すらしてないんですけど!?」
こっちの方が先に登録始めたのにそれってないんじゃない!?
訴えるがお姉さんは視線を逸らした。
「……冗談ですよね?」
きっと何かの聞き間違いだと思った。だけどそれは聞き間違いでもなんでもなかったが。
「……冗談じゃありませんよ? 登録が終わると、登録名と一緒に掲示板にメンバーが出ますから……。ほら、いきなり三人契約成功してますね」
「え? なんですそれ? 故障かなにかですか?」
「いえいえー。そんなことありませんよー」
「ならなおさらダメじゃないですか!」
俺も恨みがましい目で、受付のお姉さんが指差す掲示板を見やる。
しかも、その掲示板に出ていた名前は、なんだかパッと見でも普通の名前じゃなかったのだ。
白銀の聖騎士 リーン
月下の魔術師 ルイス
死神の射手 レベッカ
「……本当に顔出てないんですよね?」
「ええ、出てませんよ?」
「なんすか……いかにもなあだ名が頭についてるんですけど?」
「ですねー」
二つ名だ、二つ名があるよ!
みんな憧れるけど、実際はとてもじゃないけど付けられない憧れの名前二つ名である。
ほらほらと思わず指差してしまったが、お姉さんは今もニコニコ営業トークだ。
「えーあれはですね? 向こうの名のある使い手には二つ名をつけるのがステータスなんですねー。こちらでもそれは把握していますから。ああいう風に表示されてるってわけですー」
「つまり、結構お強い方だと……三人ともなんですけど?」
おいおいこっちはただでさえ普通に待ちぼうけを喰らっているのに、そりゃぁないんじゃないかという話だ。
これは俺だって怒る。クレームだって付けちゃうよ?
怒ってますよ的な雰囲気を醸し出すため、呼吸を整えていた俺。
だけど……受付のお姉さんは今度ばかりは若干すまなさそうなものを滲ませてこう言った。
「うん、まぁ、そこは……販促なので」
「あ、うん……。まぁ……ですよね」
まったく……ぶっちゃけてくれるお姉さんだった。