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『と、言うわけで。ひたすら歌いまくった。小学生よりもそっちの方が大変だった気がする』
「……それで声が低いのですな。結構なことで。フフッ、それで? 結局それは逢引の類では?」
『……それはない。どちらかと言うと暴走したアイドルさんの嫌がらせ……ではないかな?』
俺はぼやき、おじさんは妙に楽しそうであった。
結局の所、俺が昨日のことを総合した結論はアイドルさんが俺をからかう事が主な目的な軽い営業……って所だろう。
これから付き合いも長くなりそうだし。
しかしケビンおじさんの愉快な分析はまた違うようだった。
「いやいや、戦場で咲く恋の花もまたありましょう。歌劇などでも定番ですよ?」
『そんなのと一緒にされても困るから。別に俺熱唱しただけだしさ』
「ふーむ、それはいけませんな。……無害だと思われたのならお友達ですよ?」
なんだろう。おじさんがウザったい。
人生の先輩ぶるのは、もう少し後にしてもらいたかった。
『……残念じゃないし。そんな事より、結構情報は集まってきているんだ。作戦もちゃんとしないと』
「成果はあったという事ですかな? 若い者はいいですな。恋に戦いに大忙しです。これで一緒に酒でも飲めば、いい肴になったんでしょうが」
『……だーかーらー! まぁ……いいかもう』
「おや、それは残念ですね」
『あんたね……』
真面目な顔のおじさんだったが、こっそり顔を隠して噴き出しているのをちゃんと俺はチェックしていた。
大会の日程はゲームの大会としては余裕があるのかもしれない。
一回戦は一日二試合。しかし俺がやらかしたせいで、若干見直され、二回戦からは一日一試合のペースで行われる。
そう言う意味では俺はよくやったと言えるだろう。使える日数が増えたのだから。
アイドル・ライラが特別シード権を持っていて、俺は当たり券で参加したことが大きく係っていた。
トーナメント形式の試合は俺達も合わせて総勢16名で行われている。
俺とアイドルさん以外は、ネットランキングの上位者から順に集められ、トーナメント形式で進行されていて、アイドルさんの試合は初日のトリ。
一日フィールドで金策に励んでそれなりの成果は得られたが、二日目はオフ会とカラオケで費やされたのは痛い。
最後の一日で何が出来るか、もうそんなに出来ることがないのが困ったものだ。
つまりせっかくあった余裕も、泡のごとく消えつつあるという事だった。
『とりあえず。もうちょっと資金を稼いだ後作戦会議ですかね? 半分冗談だった身の危険が現実のものになりそうだし……今回もギリギリを狙って行かないと』
「何のギリギリなんですかな? 貴方は本当に、毎回面倒事を背負い込む星の元に生まれて来たのでは?」
呆れたように言うおじさんであるが、本当になんでこんなことにという感じではあった。
『……やめてください。悲しくなるから』
「恋の方ならご勘弁を。相談くらいに留めておいてもらえると助かりますがね」
『だから何が悲しゅうて、恋愛相談なんぞこの場でせにゃならんのですか。しいて言うなら勝ち方の話ですかね? 意表を突かないと今回も無理でしょうし』
「それは何とも、今回も姑息に行くしかなさそうですな」
『でも……前回の狩りのアイテムは使用禁止にされちゃったし』
これは結構由々しき問題だった。前回の方法が使えなくなったとなるとまた新しい方法を考えなければならなくなる。
「ふむ。難儀な。しかし一度使った手が通用するとも思えませんけどな」
しかしおじさんが言うように、確かに相手に手の内が知れ渡っているのは確実だった。
何をするにしても、もう一ひねり欲しい所だが、おじさんが冗談交じりに言った台詞がヒントになった。
『そうですなぁ、狩りでもダメなら食べ物でもぶつけますか? 卵でもぶつければ煽るのくらいには使えそうですがね?』
『それだ』
「はい?」
『まぁいいから。やっぱりちょっと買い出し言ってきてくれる? ちょっと多めに買ってきて実験しよう』
悲しんでいる暇は、明日大会本番と言う事実に押し潰されて消えうせている。
なんにせよ……今日は目の色を変えてやらなければ厳しいようである。




