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「……」


「げほごほごほ! ……え?」


 その子は、さっきよりももっと目を大きくして涙目で俺を見ているが、俺は滴るメロンソーダをハンカチで顔を拭う。


「……な、なんで」


 何故か驚いているが、どこがそこまで狼狽えるポイントが分からない。


 むしろ俺の方が大いに驚いた。顔中緑色になればそれは驚く。


 きっと若干の爽快感は炭酸だろう。


「いや、俺がなんでなんだけど。なんでいきなり毒切り攻撃?」


「あ! ごめん! でもだって……今、女の子って」


 ああ、そこ? 確かに男の子っぽい格好だけど、ちゃんと見ればそれくらいすぐにわかる事じゃないだろうかと思う。


「そりゃあ、直に会えばだいたいわかるでしょ。可愛い顔してるし」


「か、可愛いとか! そんなの違うし! あー、ビックリしたー。僕を見ていきなり女の子っていう人あんまりいないんだ……。今日は特別男の子っぽい格好してきたのに」


 口を尖らせる小学生は、どうにも内心男の子に間違えられることを快くは思っていないのだろう。


 それならそんな身を切る様な変装しなければいいのに、不思議な小学生である。


「よく見れば誰だってわかるでしょ。俺は男だから一瞬男の子かな?っと思ったけど。でも女の人だったらもっと早くにわかんじゃないかな?」


「そうかなぁ……」


 身なりとかはともかく、そう言う雰囲気みたいなものはわかるって言うし。


 だけど小学生はぶんぶん首を振って何故か全力で否定していた。


「ううん! やっぱりそんなことないって! 初対面の人とか、絶対間違うもん……。だから自身あったんだけどな」


「ふーん? それは注意力が散漫なだけじゃないか? とにかく男の格好したって小学生がいくらなんでもオフ会は危ない」


 見ず知らずの他人と会うのはリスクがある物だ。会う方も……会われる方も。


 悪戯でもされたら大変だし。……何よりうっかり通報されたら、こっちも言い逃れ出来ないじゃないか。


 もう手遅れかもしれないが、お互いのために厳重注意が必要だろう。


 薄々自分でも思っていたのか、小学生は殊勝な態度で謝っていた。


「うん……ごめんなさい」


「それで? えっと情報交換だっけ? うん、俺はすごく助かるよ。俺も出来ることは協力させてもらうから」


 折角なのでお兄さん風を吹かせてみた。


 こうなれば要件を早めに済ませてしまおうと、話を元に戻す俺に、小学生は今度は期待全開で身を乗り出した。


「あ! そうだった! じゃあさっそく聞きたいことがあるんだけど!」


「……えー。いや俺もね? 聴きたいことはあったんだ?」


「僕が先でもいいでしょ?」


「もちろんいいけども……」


「じゃぁ、ヤシロさんのメンバーって他にいないの? 苦手な武器は? アイテムってどんなの持ってる?」


 少々お兄さん風を吹かせるのを早まったかもしれない。


 なんというか、俺は完全に小学生の熱に押されていた。


 メモまで持って、ガッツリ質問の体勢をとられると何も言えない。


 社会科見学の時だって俺はこんな熱心な目をした覚えはなかった。


「待った待った! ちょっと待って!」


「僕! せっかく話題の人と戦うんだから一回会って見たいなって思ったんだ! なんであんなひどい勝ち方したの?」


 くっ……さすが小学生。曇りのない瞳で核心を突いてくるぜ。


 最初から喉元にナイフを突きつけられたみたいな気分だ。


 しかし、最後のやつは馬鹿正直に言っていい物か迷う質問だった。


「……だから、その邪神となんでオフで会おうと思うかな?」


「それはもういいから! なんで?」


「……」


 その上、煙に撒こうとしたが失敗してしまった。


 何でと言われても、アイドルのパーティをスライムでズルズルにするしか勝ち目が思いつかなかっただけなんだけど……。


 あ、だめだ、とてもじゃないけど言えない。言いたくない。


 ここは簡単にぼかしておくべきだ、教育的にあまりいい描写ではないし。


「強そうな……アイドルが……相手だったから?」


 随分漠然とした返事をひねり出したが、何故か小学生の食い付きはそれまで以上に抜群だった。


「へぇー! アイドルと戦ったんだー! すごいなぁー!」


 だが俺もようやくこの違和感には気が付いていた。


 俺の答えは、彼女の問いへのはっきりした答えには全然なっていなかったはずだ。


 それにこの小学生の態度は、どうにもおかしい。


 口調がどうにも白々しくて、いわゆる棒読みである。


 それに、あまりにも直接的な質問の数々。


 自分でも食いつきすぎたことに気が付いたのか、椅子に座り直して若干赤い顔をしていて、残っていたメロンソーダを照れ隠しにぶくぶく息を吹き込んでいた。


「……」


 俺はなんとなく、この小学生の思惑って奴に見当がついてしまった。


 ……折角だから小学生を釣ってみよう。


「ふーん。戦ったよ。連絡してみようか?」


「そんなこと出来るの!!」


「……」


 驚くべき勢いで身を乗り出したのをさっと自分のメロンソーダを避難させて躱した。


 じっと視線を送る俺に、小学生はまたはっとなって数秒後、耐えられずに目を逸らす。


「やはりそうか。君は、あのアイドルさんのファンだな?」


「うっ。……そうです」


 指摘すると早々に白状する辺りなかなか素直でよろしい。


 どうやら俺はアイドルさん経由でこの子に興味をもたれた様だと言うのがこの珍事の真相のようだ。


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