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ああ、こんなふうに見えてるんだ妖精の俺。
白く光る塊がぼんやりと浮いている姿は客観的に近くで見ると、中々神秘的である。
今まで他のプレイヤーと近くで接する暇がなかったわけだが、近くで見ると光の上の方にハンドルネームが見て取れた。
この誰かさんは『ユウ』というらしい。
『……』
『……えっと、何か言って欲しいかなって思うんだけど』
『ああ。えっとそれはうれしいです?』
反応を求められて反射的に答えてはみたものの、合っているかどうかは微妙である。
彼、もしくは彼女が今度の相手なのだろう。ユーザー名がユウでは、どちらとでもとれそうだ。
ついつい語尾が疑問になってしまったのは、ユウに不信感を与えてしまったみたいだった。
『あんまりうれしくなさそうだね。いいけどさ』
『いやまぁ初対面ですし』
『僕の方は、なんだか初対面って感じはあんまりしないけどね』
『あれ?どこかで会ったことありましたっけ?』
『直接はないかな? でも歌手のライラさんを倒したプレイヤーってことは知ってる。しかも全員二つ名付きのキャラクターを破ってさ』
『あー、なるほど』
危惧はしていたが……俺はずいぶんと有名になってしまったようだった。
あの後別に石を投げられる様なこともなかったし、ちょっとだけ安心していたんだけどゲームの中の限定的な空間では十分すぎるほどに知名度を上げてしまったみたいである。
『僕もこのゲームはβ版からプレイしてるんだけど、わからないことだらけなんだ。知ってるでしょう? このゲームって攻略法っていう攻略法が存在しないんだよね。だからプレイヤー同士の交流って結構大事なんだ』
『ええまぁ、俺もそれで結構苦労してます』
『でしょ? それでなんだけど、情報を交換したいなって。僕も役に立てることもあると思うんだ』
『はい? えっと……俺、次の対戦相手ですよ?』
思わずしなくてもいい返しをしてしまった俺だった。
しかし俺に役立つ情報を与えたって、ユウにいいことは一つもないはずだろう。だと言うのにユウは事も何気に言ってのけた。
『別にいいよ? だってそっちの方がフェアに戦えるでしょ?』
いい人だ、とてもいい人だ。
これがオンラインの実に常識的な振る舞いってやつなんだと俺は感激した。
ゲームを始めてからひでー奴としかあってなかったからこそ身に染みる言葉である。
なるほど、考えてみれば確かに試合というのも縁といえば縁だ。
少なくとも話しかけるきっかけにはなる。コミュニケーションも立派にオンラインの楽しみ方だという事を忘れかけていたよ。
しかしユウの提案に乗るには少しばかり問題もあった。
『でも、俺の方は役には立てないですよ? だって始めたのほんの数日前ですし』
『え? 数日前って……あれって本当だったんだ』
『噂になってます?』
『ホントに噂程度だけど……でもあのメンツにさすがにそれじゃあ勝てないだろうって……本当に初心者なんだ?』
『ええそういうことになりますね』
こんな事隠していても仕方がない。メンバーを見れば何となくわかってしまう事だ。
情報はもらいたかったが、情報がタダではない事もよく知っている。
向こうもギブ&テイクだと思ったからこそ声をかけてきたんだろうから、わがままは言えない。
ユウは考え込んでいるようで、しばらく返事がなかったが、すぐに何らかの結論を出したようだった。
『じゃあちょっと提案があるんだけど、どう?』
『と言うと?』
『今、大会中だから会場の近くにいるんだよね? 僕も近くのホテルに泊まってる。どうせ大会の時に一度会うんだから。別のところで会えないかなって思って』
なんだろう雲行きが怪しくなってきた。……引っ掛かるのはリアルで会おうというその一点だった。
『……それならオンラインでいいのでは?』
『それはそうなんだけど、せっかく近くにいるってわかっているんだし。知ってる? 試合参加者に配られる試作品のカードみたいなやつ、通信で情報のやり取りもできるって? オリジナルの壁紙がもらえるんだって!』
『はぁ……知らなかったです』
これはまた随分と踏み込んだことを言う人、再びだ。
何でこのオンラインゲームのプレイヤーはこんなにオフで会おうとして来るのだろう?
確かオンラインゲームは、顔を見せずに気軽に他人とコミュニケーションを取れるところも魅力の一つじゃぁなかっただろうか?
すでに古くなっているのかもしれない、俺の中の常識は崩れつつあった。
『……』
思わず考え込んで黙ってしまった俺に、さっきまで元気だったユウは、今度はおずおずと尋ねてきた。
『……あのなんでいちいち黙るのさ』
おっとこれは失礼。結論としてはもう決まっているのだから、さっそく返事をするとしよう。
『えーと……止めといたほうがよくありません?』
「『なんで!』」
そう答えた途端、相手の二人の声が綺麗にそろっていた。
ははっ、この人達なんか面白いや。
だってそりゃそうでしょう? 前回だってどうかと思ったもの、対戦相手と直に会うのって。
『リアルで会うのってなんか抵抗を感じて……ちょっと悩みますね』
とりあえずは断ってみたが、ただ同時に打算的な考えが俺の頭をふと過ぎったのも確かだった。
それはこいつはチャンスなんじゃないだろうか? ってことである。
情報の交換ももちろん利点の一つだろう。
前回あのアイドルの人との会話は……まぁ、なんだか挑発してしまったりしたけれど、勝負に関してはいい方向に働いた。
アイドルさんの勝ち気な性格と、どれだけこっちを侮っているのか、その辺り確認できたのは収穫だった。
では今回はどうだろうか?
相手はネットのトップランカーだ、はっきり言って尋常じゃない強さだろう事は予想の範疇である。
はっきり言ってその程度で覆せる差だろうか? 望み薄であることに違いはないと思う。
『えっと……どうしてもだめ? 絶対に?』
だけどどういうわけか戸惑いが見え隠れしているユウの声を聴いて若干考えを改めた。
なんでそこまで食い下がるのだろう?
だが考えてみれば、向こうだって同じように考えていたって不思議じゃない。
ユウの狙いは、初心者の疑いがあるプレーヤーに親切に情報を提供しようという事だけじゃない。
次の対戦相手がどんな相手なのか、少しでも情報を得ようとしているのなら納得である。
俺がそうであるように、彼もゲーマーであるという事なのだろう、手抜きが出来ないっていうのは実に素晴らしい。
ならば、乗ってみるのもいいかもしれない。このゲームが試合前の駆け引きすら楽しむものだと先輩が教えてくれるなら、それもいい。
『んーまぁ、どうしてもと言うなら』
『ホントに! よかったー!』
声からして若い人みたいだし、ここはひとつ乗ってみることにする。
ちなみにオフ会は前回のアイドルさんとの変り種を含めなければ、初めてだといっておくとしよう。
俺の声から動揺を察したのか、おじさんが小声で訊いてくる。
「よかったのですか? 容易く誘いに乗って?」
『正直賭けだね。一般の人だろうし、この間みたいに露骨な事にはならないと思うけど』
「直に話せばわかることもあるかもしれませんな。……幸運を祈ります」
『頑張りますよ。じゃないとアイドルさんに社会的に抹殺されかねないし』
小声で囁く俺とおじさんはこっそりと相手に視線をやる。
『ええ。それじゃあ待ち合わせ場所は……決めてもらってもいい? この辺りはあんまり詳しくなくって』
『それじゃあ追って、こちらから場所を送ります』
さてこれが吉と出るか凶と出るか……運命の分かれ道だった。




