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『ふーむ……。それじゃあ。前回同様お金を稼ぎつつ実戦訓練って事で……』
「それしかありませんな、時間もありませんし。前回相当私も浪費してしまいましたからな」
装備一式。とりわけスケルトンの重装備と、各種アイテムはそこまで高い物ではなかったが、そこは始めたばかりだ、多少足は出る……と思っただろう?
しかしそうではない。
なんと! 第一回戦を突破した賞金と言うものがあったのだ!
『ああ、そういえば、前回勝った分,
懐は温かくなったんだった!』
数少ないいいニュースである。俺もようやく普通に伝えられて喜ばしい。
おじさんも予想だにしていなかったらしく、表情を明るくしていた。
「ほう、それはよかった」
『うんうん。俺も意外だった、まさか一回勝つごとに賞金が出るとは。こういうのは優勝しないと何ももらえないと思ってたし』
「ええ。一獲千金の夢は意外に早く叶うかもしれませんな」
『ああ! 結構それなりの額だとも! オジサン的にもう一獲千金なんじゃないの?』
「それは重畳ですね」
もちろん普通に暮らす分にはという話ではある。強力な武器や防具を買うとなると、すぐとんでしまうだろうが。
だがふと気が付く。懐が温かくなったという事は、おじさん的にはすでに目的を達成してしまったのではあるまいか? ということだ。
不用意に言っちゃったけど、大丈夫か?
契約した時に何か目的がある様なことを言っていたし、急に不安になってきた。
『えっと……そういえば、契約する時、何か目的があるって言ってましたけど、ひょっとしてもう、目的達成しちゃいましたか?』
俺は恐々聞いてみる。
今からおじさんに抜けられるとしんどいなぁと思っていたのだが、おじさんは手を振って否定した。
「いえいえ、そりゃあお金稼ぎも目的の一つではあるのですがね。私はどちらかというと……神様にというよりも悪魔に用があったのですよ」
『悪魔?』
「はい……そうです。そうだと思います」
あまり聞きなれない話だった。
ただその瞬間何となく声を聴いてゾクリと寒気が走った。
何なのかわからないが、ただならぬことらしい。
「ずっと探しているんですよ。大きく黒い翼をもった真っ黒なやつです。しかし手がかりすら見つからなかった。だから神と契約出来るようになったと聞いた時、ひょっとしてと思いまして。この年ですので迷いましたが、まぁ目的はそんなところです」
不用意に踏み込みすぎてはまずいと俺の直感がささやいていた。
今は直感に従ってなるべくあっさり流す事にしておいた。
『ふーん。おじさんもいろいろ大変そうだ』
「貴方ほどではありませんよ。古い話ですので。まぁ当ては外れてしまいましたが一獲千金はあきらめていませんので、もう少し頑張らせていただきますよ』
任せておいてくださいとほほ笑むおじさんはとりあえずしばらくは付き合ってくれるという事でいいようだ。
どうやら、すぐに脱退という事はないらしい。
俺は胸をなでおろした。
『なら、悪魔の事は気にかけてみますよ』
「ええ、お願いいたします」
なんかそんなモンスターがテラ・リバースにもいるのかもしれない。
攻略サイトがあまり機能していないので、望み薄かもしれないが、探してみるのもいいだろう。元々目的のないゲームなのだから。
――だが、それは大会の後の話だ。
『それじゃあ、目先の問題をどうするか考えよう。今回は相手が相手だし、少し気合いを入れてアイテムをそろえておきたい』
物資は戦を左右する。これ常識だろう。
「今までより余裕ができたとはいっても、武装も強化するとなれば、まだ心もとないですからなぁ」
『ですです。よってもう少し堅実に資金調達したい。というわけでオジサン的に稼ぎがいい場所はないかな?』
俺は買っておいたこの辺り一帯の地図をアイテムボックスから取り出すと、おじさんは地図を指差してなぞった。
黒く、詳細とは言い難い部分だが、それが大きな森を示しているのだと気が付いた。
「そうですなぁ……だいぶん戦い慣れてきましたし、そろそろこの辺りに言ってみてもいいでしょうね」
『森ですかね?』
いちおう確認すると、頷いたおじさんが地図を持ち上げひらひら揺らした。
「そうです。通称死の森。なかなか楽しい所ですよ?」
『名前からして全くそうは思えない……』
死の森ってあなた、死んじゃったら困るでしょうに。
ただおじさん的には行きつけの場所であるらしい。むしろこの世界では危険な場所に赴くなど当たり前のことの様だった。
「危険な森だからこそ、価値があるのですよ。降りかかる危険の種をあらかじめ調べておけば、最小限の危険で最大に効果を得られるものですしね。モンスターを倒して稼ぐのもいいでしょうし、薬草とか、珍しい毒草なんかもよく採れるのでよく拝借してきます」
『それはまた逞しい話だ』
「薬草に関しては必要な分だけ取る。これ永続的に稼ぐコツです」
そしてどうやら薬草詰みがおじさんの主な収入源の様である。
ふむ、それはおいしいかも。少しでも予算は温存しておきたいし。




