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『……はぁ』


 一回戦から恒例のゲーム内会議である。


 折角動画をもらったから見てみたが、毎度毎度動画と言うやつは俺の精神を容易く削って来てくれるものだった。


 きっと情報量が多いと、それだけ精神に与える負荷が大きいに違いない、知りたくなかったこともあると言うのに。


 ある意味では、アイドルさん以上のインパクトある試合運びだったわけだが、どこがまずいのかはすごくわかりやすい。


 単純に力が強い、これが一番厄介だ。


 連携も何もない、圧倒的強さと言えば見る方にしてみれば見応えはあるだろう。


 しかし挑む方からしてみたら、これ以上ふざけた話もないと思う。


 オオカミ男も決して弱いわけじゃなく、男に比べればまだマシといった程度だった。


 単純につけ入るすきが少ない。猛者ばかりのネット内をそれでもなお勝ち進んでいるのだから底が見えなかった。


『えっとですね。……勝ったので引き続き試合に臨もうと思います』


 マイキャラであるケビンさんは、あくまで余裕を滲ませた大人の態度で朗らかにお祝いの言葉を述べていた。


「わかっておりますよ、おめでとうございます。これも皆あなたの見事な采配あったればこそですね」


『いやいや、君らの力あったればこそだよ? メンバー交代も正式に止められてしまったし』


 これはアイドルさんの強い希望もあるが……普通に大会の決まりだった。


 経緯が経緯だし少しくらいと粘ったが、やはりダメだったのは、密かにアイドルさんの暗躍があったのでは?と勘ぐっている。


 そんな落ち込んだ気分を毛筋ほども出さず、ケビンおじさんに俺も朗らかに返す。


 もちろん前回はかなりの奇策で勝利をからめ捕った印象だ。若干の冷やかしが台詞に混じっている事には気が付いている。まったく食えないおじさんだった。


 ただおじさんの影響が出始めているのか、仲間のモンスター達も調子に乗っているらしい。


 スケルトンも心なしか楽しげにカチカチと手を叩いているし、ぷにょんとスケルトンの兜の上に乗っているスライムも震え方が嬉しそうだ。


 一番知恵の回るリーダーのおじさんがこれだから、残りのメンバーも面白いことになってしまった気がするが、俺は深いため息を十秒ほど吐き続けてから切り替えた。


『いくら世間で酷評されようが勝ちは勝ち……と、いうことにしておこう』


 総括して深く頷く。おじさんもスケルトンもスライムも皆一様に頷くっぽい動きをしていた。


「それがよろしいでしょう。私共も、負けるために戦いたくはありませんしね」


『そりゃそうでしょうね。まったくだ』


 おじさんもこう言っているし。良くやったということにしておこう。


 戦う当人からしたら至極当たり前のこと、ゲームとはいえ勝者と敗者が出来るものだ――無常である。


「その通りです。せっかくですのでこのまま邪神として頑張っていきましょう」


『いや折角とかじゃなく、不本意ではあるんだからね? それは普通にどうかと思う』


 あらぬ誤解はあるようだが、例の呼び方の事は脇に置いておくことにして、さて行動の結果は受け止めねばならない。


 勝ったのだから次の戦いをせねばならないのが試合と言うものだ。


『それじゃあ冗談はこれくらいにしましょうかね』


「そうですね。くよくよしていても仕方がありません」


 おじさんはそう言うと腕を組んで頷く。


 何言ってるかわからないけど、スケルトンとスライムもやる気にはなってくれているらしい。


 俺とてテンションは決して低くはない。一回戦、辛くも勝利をおさめた俺達は、やっと本格的にゲームをプレイ出来ているんだと思う。


 今からせっせと資金集めやらモンスター討伐に精を出すわけだが、これがテラ・リバースの平常プレイなのだろう。


 一回戦はなんだかんだ言って勧誘しかまともに出来ていなかったし、今更だが何もかも新鮮だ。……大会で一回戦を勝ち上がったのに。


 広がるフィールドも改めて見ると、遠くの方にも素晴らしい色彩が広がっているのがわかるんだ……大会で一回戦を勝ち上がった今になって。


「どうしました?」


『……いや、変則的な事やってるなぁと思って』


「今更と言えば今更な話です。気にするだけ無駄でしょう」


『それでも心の片隅に置いておかないと。ふとした時に真顔で自分が普通アピールしてしまうのも滑稽でしょう?』


 自分の置かれている状況が一般ユーザーにおける普通だと思ってはいけないことくらいは俺にだってわかる。戒めを籠めて、自分から言った俺だったが、おじさんは言った。


「そういうものですか? 世の中割と言ったもの勝ちみたいな所があるものですよ」


 そんな身もふたもない。でも考え方は割と好きだけど。


 そこまで言うならいいだろう、彼らにも覚悟を決めてもらうとしよう。今更普通じゃないことにビビっていたって仕方がない。


『そうだね、ここまで来て何も怯む事なんてないよな! ……じゃあさっそく建設的な事をする! フィールドに出る前に実は次の対戦相手の動画がまたあるんだよ!』


 ここまで来たら一蓮托生、ちょっと強い相手だからって怯んでなんていられない。


 俺は仲間達を前にして動画鑑賞会を実行する。


 結果――。


『これは、また無茶ですなぁ』


 カタカタカタ……。


 ぶよーん。


 彼等は大いに動揺していた。


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