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やはりUSBに入っていた動画は、ショッキングな場面から始まった。
牙をむき出しにして、口から蒸気を吐き出すオオカミ男のドアップである。
フィールドは荒野。
オオカミ男は二匹で。武骨な、剣と言うよりも鉄の棒と言った感じの武器を振り回し戦っていた。
相手のメンバーは全身岩で出来た動く悪魔像と人間の戦士、さらに遠距離担当の魔法使いから構成されている。
対してオオカミ男の方のプレイヤーはオオカミ男二匹と人間の男が一人。
しかしこっちの方はどこかおかしく、人間の男は彼らが戦っている後ろから眺めるばかりで動かないのだ。
黒い髪のトゲトゲした短髪の男だが、体が大きく鍛え上げられていて鋼の鎧もまた無骨である。
どう見たって戦士である。
魔法使いというわけでもなく、見ているだけというのはある意味不気味だった。
ただ頭数が少ないとは言っても、負けているというわけではなかった。
オオカミ男は速く、速攻が決まり、魔法使いは早々に牙の一撃を受けリタイアする。
ぐるぐると唸りながら目を光らせるオオカミ男は、しばし力を溜めていた。
戦士と悪魔像もやられてばかりではない、それでころかかなりの実力者である。
戦士は雷を纏う剣を構え、悪魔像は口から炎を吐いた。
動きが速く、牙を剥き出しにしてしゃむにに突撃を繰り返すオオカミ男の牙を鎧でそらし、隙をついて斬りつけもするのだから、かなりの錬度だろう。
オオカミ男もすさまじく、ダメージをものともせずに戦う姿は狂気すら感じさせた。
勝負は五分五分。若干勢いのある狼男は優勢か?といったところだった。
この時点では――どちらが勝者になったところでおかしくはない。
しかし拮抗する状況を変えたのは、両者の致命的な攻撃ではなく、一人の男のたった一言だった。
『もういい……だいたいわかった。下がっていいぜお前ら!』
男が声をかけたとたん、オオカミ男はすぐさま戦いをやめると、飛び退いて人間の男に戦場を譲ったのだ。
どことなくオオカミ男達に怯えが見えるのは気のせいだろうか?
後方に引くオオカミ男達のわきを抜け、男は馬鹿でかい剣を肩に背負ってひょうひょうと進み出る。
俺も何が何だかわかってはいなかったが、何が何だかわかっていないのは戦いを止められた方も同じだった。
どちらかと言えば劣勢だったのだから当然だろう。侮られたと憤ったとしてもおかしくはない。
だが相手はその状況をチャンスととらえた様である。
男が進み出てくるのも待たずに、同時に襲いかかったのだから、彼らの切り替えの早さはむしろ潔かったし、悪くはない試合運びだったろう。
『はっ! いいねぇ、そう来なくっちゃ……な!』
それなのに男が剣を抜き、動いた瞬間。勝負はあっさりと決着した。
「なんだそりゃ……」
俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。
巨大な鉄の塊みたいな剣の一振り。
おそらくは人間用には想定されていない、巨大な生き物を仕留めるための装備を軽々と振り回し、とんでもなく重く鋭い音が通りすぎて……それだけで全部終わっていた。
それで十分だったというべきかもしれない。
どちらかが盾になるとか、そういう問題じゃない。場所が入れ替わっていたとしてもどちらが先にやられるかだけの違いにしかならなかったことは、見ていればわかった。
石の体は無残に砕け、戦士の鎧すら装備事一刀両断なのだから。
度を越えた威力は、敵の意表を付き。気が付いた時にはまとめて薙ぎ払っている。
俺の目が点から戻った時には実況が叫び、バトルフィールドには敗者達が点々と転がっていた。
プレイヤーの代行者であるキャラクターは、勝利の二文字を背にフィールドに君臨する。
フィールドの敵を一掃した彼は二匹のモンスターを両脇にして、ふてぶてしくも見える余裕の笑みを見せる。
『あんたら中々強かったぜ? もっとも相手が俺達じゃなかったら……だがな!』
『『ウォオオオオオン!!』』
男が剣を掲げて見せるのに合わせて、オオカミ男二匹も高らかに遠吠えを上げていた。
とても短かった動画をぼんやり眺める。
そして俺は思った。
「……やっぱ無理だって」




