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『戦いの祭典。神々の宴。ヴァルハラに誘われた戦士達の激戦が今――始まります』


 どこからともなく聞こえてくる実況の言葉を合図に、景色は一変する。


 ステージ上には光が溢れていた。


 空中に無数の立体ディスプレイが浮かび上がり、それはそのままネットの海から戦いを観戦する人々の数である。


 天井を埋め尽くすほどに開いたウインドゥの数に視線のプレッシャーがのしかかる。


 俺はログインIDを入れ、自分のデータを呼び出した。


 メンバーは一人と二匹。


 もちろん変わってなんかいやしない。彼らがこの舞台で俺の信じることが出来る唯一無二の面子だ。


『さて……今日のフィールドはランダムで決定される! 運命の分かれ道!』


 実況に言う通りフィールドの決定は重要である。


 俺は拝んだ、いや、実際拝んだわけじゃないけど、心の中で拝んだ。


 そして選択されたのは――森林。


 悪くない! だけど最高とはいかないけど!


 巨大な闘技場にバトルフィールドが形成されて、無機質な機械装置から肥沃な森林に姿を変えた。


「うわ……こいつはすごいな」


 強力なライトがバトルフィールド全体を照らしだす。そして俺の手元には数種類の画面が並んでいた。


 手持ちのアイテムと、数種類のカメラはキャラクター達をより近くで確認できるもののようである。こちらはいつもの視点に近くそれ専用のカメラがあるようだった。


 おじさんは舞台を見て、感嘆の声を上げていた。


「ほっほう、これはまた奇妙な物ですね」


「そんじゃまぁ、よろしく。特訓の成果を見せてもらうよ」


「ええ、わかっていますとも。数日とはいえ中々有意義な時間でした。特に今日はみ目麗しいお嬢様方と戯れるのですから、やる気も出ようというものですよ」


 おじさん、スケルトン、スライムが立ち並び準備は完了だ。


 プヨンプヨヨン!


 スライムは機嫌よさそうに地面を跳ねまわり、まるでボクシングのステップでも踏んでいるようだ。


 一番見た目が初期と変わったのはスケルトンだろう。


 カッカッカッカッカッカ!


 スケルトンは歯を打ち鳴らして、充実した武装で重量感たっぷりにフィールドを踏みしめる。


 分厚い鋼鉄製のヘルムを深くかぶり、鋼鉄製のガントレッドで両手を覆っていた。


 さらには分厚いプレートの鎧も下げて決闘に臨む姿は、重戦士といった風情である。


 ケビンおじさんの装備はスケルトンに比べたら貧弱そのもの。はっきり言って布の服だ。


 初期装備よりもさらに軽装だったが、余裕たっぷりに腕組みしている。


 彼の態度は出来る限りの準備をしたという自信の表れであると信じたい。


 一方ありあわせ感の強い俺達に対して、相手陣営は壮観だった。


 対する美女三人は、三人とも立派な装備に身を包み、とてもじゃないが同じ時期に始めたとは思えない充実っぷりが見て取れるのだ。


「逃げなかったことだけは褒めてやろう。さぁ! お前達の力を見せて見ろ!」


 白銀の聖騎士リーン。


 大きな西洋鎧と身長を超えるほどの刀をもった銀髪の女騎士が片手で軽々と切っ先を突き付けて吼える。


「リーンも楽しみなのはわかるけど、少し落ち着きなさいな。暑苦しいわ」


 月下の魔術師 ルイス。


 黒いフードからこぼれる赤みがかった髪と木製の杖がいかにも魔法使い的なエキゾチックな美女が妖艶な微笑みを浮かべていた。


「いいんじゃない? 相手は格下でしょ? 私達も楽出来るしさ!」


 更にもう一人、死神の射手レベッカ。


 金髪碧眼のエルフで、その二つ名の通り弓の使い手だが、彼女は頭の後ろで手を組んで、随分気軽すぎる態度だ。


 改めて見てもバランスがいい。近距離。遠・中距離。そして大火力の遠距離。


 何の嫌がらせだと言うラインナップだった。


『みんなありがとう! 今日は頑張るから応援よろしくね!』


 そしてそんなキャラクター達よりもある意味では燦然と魅力を振りまき、俺にとってはアウェイを作り出している歌手であるプレイヤーのライラ。


 俺が言うところのアイドルさんは今日も絶好調だ。


 観戦者用のディスプレイから流れる喝采と、コメントにげんなりしている俺だったが、突然通話が入る。


 なんとそれは対戦相手のアイドルさんからだ。


 俺は顔をしかめた。出るべきか悩んだが、ここまで来たらもう自棄だ。


『さて、よろしく。私に対する暴言の数々、今日この場で後悔させてあげる』


「……そうですか。楽しみにしています」


『口が減らない。かわいくないよ』


 サウンドオンリーでも伝わってくる不快感。随分嫌われてしまったらしい。


 たださすがアイドルだけのことはあると感心するところもある。


 声に緊張がまるで感じられず、むしろそう簡単に負けないと言う気迫さえ十分乗っていたからだ。


 そうでないと面白くはない。


 俺は舌なめずりして前のめり気味に構えると、双方の陣営が揃い、試合は始まる。


 形容しがたい独特の高揚感がざわざわと湧き上がってくるのを感じた。


 さぁ楽しもう。楽しいゲームの始まりだ。


 後はやれるだけのことをここで見せるだけだった。


『それではお待たせしました! 注目の第一回戦! スタートです!』


 決戦の火ぶたはひときわ気合の入った実況と、ブザーの音で切って落とされた。


「いけ!」


 俺は大きなブザーの音が鳴り響くのとほぼ同時に指示を飛ばした。先陣を切ったのはスケルトンだ。


 俺は合図と同時に素早くアイテムボックスをタッチする。スケルトンは空中に出現したアイテムを絶妙なタイミングで大きく口を開けて飲み込んだ。


 付け焼刃だが練習の成果である。出てくるタイミングを計れば、動いていてもアイテムは使える。


 スケルトンはそのままズバリ、中々呑み込みが早かった。


 スケルトンは鎧と骨をカタカタ鳴らしながら、勇ましく飛ぶ様に相手の戦士 白銀の騎士リーンに狙いを定めて剣を振りかぶる。


 あれだけ重い装備を身に纏いながら躍動感さえ感じさせる特攻はさすがモンスターだ。


「ふん! 破れかぶれか!」


 しかし敵もさる者、あれだけ迫力満点だと言うのに、冷静さを全く崩さない。


 スケルトンを前にリーンは一歩も怯まず咄嗟に手にした刃を振り回す。


「……あれ?」


 胴体を一撃されたそれだけで、パカンとスケルトンは四散した。


 アンデット系の突進を眉ひとつ動かさず対処するのはどうなのだろう? 女子的に?


「ス、スケルトン!!」


 俺は身を乗り出して、声を荒げた。


 だがもちろん慌てることなどフェイク。そしてあまりに予定通りの動きは好都合すぎて笑を噛み殺すのに苦労した。


 カタカタと空中で回る頭蓋骨がそれをかみ砕いたのは地面に転がる一瞬前だ。


 とたん、しゃれこうべの口から溢れる閃光がライト以上の光を会場全体にぶちまけた。


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