奇妙な世界 中
目の前の扉を改めて観察してみる。
この漆黒で埋め尽くされている中、
真っ白な色であるこの扉は相当目立つ。
まあ、だからこそここまでたどり着いたわけなんだが。
扉を開ける。
先ほどの世界とは打って変わって、
白い世界が広がっている。
白銀の、まるで雪のような世界だ。
あまりの変化に目が痛くなる。
そんな中
「ここにお客様とはめずらしいな。
ようこそ"すべてのはて"へ」
なにか得たいの知れない人がいた。
「いや、ちょっと待ってくれ
得たいの知れないはひどくはないかい。」
・・・今俺は喋っていなかったはず。
お前は心を読んだのか。
「ああ、そうだよ。君が喋れないことは先ほどわかった。だからそうした。」
しゃべれない?そんなはずはない。
だってさっきからずっとしゃべっているのだから。
「・・・もしかして自覚ない?」
もち。
「・・・君の名前は?」
ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。
俺の名前は
俺の名前は・・・
「・・・なるほど。」
なにがなるほどだよ。どういうことだよ。
なんで俺は自分のことを"忘れて"いるんだ。
「君は"忘れた"んだ」
?俺が忘れた?
「そう、″忘れた"。
恐らく気づいていないだろうけど、
君はあの無感地獄に3ヶ月と3年半、あの世界にいたんだ。」
へぇ。
・・・あの世界に?
「そうだな。普通なら発狂するような場所に
君は約4年はそこにいたんだ。」
・・・つまり・・・どういうことだってばよ
「まあ、簡単に言うなら、普通ではない、
"人"ではないナニカになってしまった。
そしてキミは君でなくなったから、別のきみになってしまったんだ。
結果、きみは自分を忘れてしまった」
・・・なにそれどゆこと
「つまり君はさきほど私のことをそういったように
得体の知れない何か、になってしまったってこと。
おめでとう、人間卒業」
パチパチと奴の拍手が虚しく響く。
そして俺は考えるのをやめた。