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食堂の事情。  作者: ぐも
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その1 ことのはじまり

プロローグ。

 帝国暦九三八年、北部第五郡基地。



 前線からは遠く、帝国の兵器開発を主な軍務とする基地である。ナノハナはその北第二食堂に勤めていた。所属の大部分を占める工兵科の軍人たちは各々の研究ペースにあわせて食事をするため、彼女が以前いた歩兵科主体の南部基地と違って食事の混雑ピークは数度に渡る。配膳もバイキング形式で、北第二食堂側もさほど手間と人員をかけていない。同じ基地内にある南第一食堂、所謂将校クラブのサービスは論外のセルフサービス方式である。夕食の最後の混雑時間が過ぎれば配膳は撤収の頃合いだ。


 二十歳を少し過ぎたばかりのナノハナは、職場では若手で、体力勝負の夕勤に入ることが多かった。片付けが多く、力仕事になるからである。ナノハナは力仕事が得意な方であるので、不満は無かった。春先にこちらに転属してからは概ね平穏に過ごしているし、地味だがやりがいのある仕事には誇りを持っていた。不安といえば、これからくる北部の厳しい冬くらいだ。冷え性は昔からである。


 その日もナノハナは、閉室時間間近になって、陳列していたバットを片付け始めていた。

 空のバッドに手をかけた時、若い軍人が俯きがちにカウンターに歩いて来るのが見えた。少年、と言うには成長しているが、男、というにも若い。華奢だから、未成熟な少年に見える。

 若い男の子が苛立ったように大股で歩いてきたので、ナノハナはおかずが残っているか心配した。何か腹の足しになるものがあるかと、空腹に見えた若者からは視線を外す。

 その軍人はトレイも皿も取らず、真っ直ぐにナノハナの正面まで来た。だん! とカウンターに両手を叩き付ける。


 ナノハナはびっくりして顔を上げた。調理場の同僚たちも何事かと視線を向ける中、若い兵士は被っていた軍帽を取った。金色の短い髪があらわになり、珍しさにナノハナは更に驚かされた。帝国の大部分は目も髪も黒いし、肌もそう白くない。北部に来てからは時折銀髪や青い目の人間も見かけるが、金髪は圧倒的に数が少ないのだ。軍帽を、ぐ、と握りしめて上げた目も金色だった。帝族特有の金髪金目の人間というのを、ナノハナは始めて同じ立場で見た。肌は雪のように白くて、その上目鼻立ちが整っている。どこかの俳優かと思うような美形だ。当然、ナノハナの知り合いではない。


 若い兵士は、ナノハナを驚かせる一言を叫んだ。


「ここで働かせて下さい!」


 食堂中に響く声に、誰かが食器を落として割った。

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