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その七:らーらんららーらー。

 らららーらん。


 らーらんららーらー。


 らんらんらーらん。


 らーらーらーららー。


「その歌は?」

「私作曲、『お祭り楽しいな!』です!」

「そうか」

「そうです!」


 らーらーららんらーらーら。


 ららーらんらんらーらんら。


 らーららーらー。


「良い歌だな」

「はい!」


 いやー、こう、祭りってのは無駄に気分が高揚しますよね!


 道行く人々の活気とか、明るい雰囲気とか、おいしい食べ物とか、おいしい食べ物とか!


「ラファ? ちゃんと食べてますか?」

「ああ」


 そういうラファは手になにやら怪しげな物体の照り焼きを持っています。


 な、なんなんでしょうこれ。三角? と円錐っぽい形を組み合わせたような胴体に、うねうねした足が十本あって、しかも足には無数に不気味なぶつぶつがついています。それに案外勢い良くかぶりつくラファは、食材の異様さも合わさって傭兵を通り越して山賊の頭と見まごうほどです。


「イカだ」

「イ、イカですか?」

「ああ。以前ラトヴィに仕事で行ったときに食べた。この辺りでは見かけないようだが」

「そ、そうですね」

「食うか?」

「いいです…」


 そういえば、東のラトヴィ地方とこの辺りでは、大分食生活が違うそうですね。ラトヴィの人が出している屋台には、他にも得体の知れないものが不気味な空気をまとって並んでいました。


 …今後私がラトヴィの土を踏むことは無いでしょう。


「美味いと思うんだがな」

「見た目でもう無理です…」

「そうか」


 存外残念そうなそぶりも見せず、ラファは食べ終わったイカの串を投げ捨てました。オウ、ワイルド。


 ちなみに私の手には焼き鳥が二本あります。うん、気の利くシャルさんはちゃんと一本多く買っておいたのです。ほい、と片方をラファに差し出すと、最初は遠慮していましたが、「遠慮は無しって約束ですよ」と言うと、「すまん」と言いつつ受け取りました。


「美味しいですか?」

「ああ」


 表情はいつもと変わらないんですけど、確かに美味しそうに食べているように見えるのが不思議です。


 今度は手料理でも作ってあげようかなあ、という野望が鎌首をもたげましたが、惨憺たる過去を思い出してあえなく霧散しました。


 ふっ、ミュリーちゃんには「舌がもげる」と評され、故郷で家族に作ってあげたときは全員翌日には発熱と腹痛、焼くという過程が存在する料理をことごとく黒炭に変えてきたこの私が手料理なんて…。でもいいんです。夢を見るのは自由ですからね!


「どうした?」

「え、いや、なんでもないですよ?」

「そうか」


 いつものごとく淡々とした受け答えですが、また何を思ったのかポン、と頭を撫でられます。ちょ、気持ちいいけど、これじゃあ体格差も手伝ってデートじゃなくてまるで親子連れじゃないですか!


 こ、これは、よくよく考えたら由々しき事態です。周囲からの生暖かい視線が痛いです。やめて! その「親子で仲が良くて微笑ましいなあ」な空気はやめてえ!


 仕方がありません、ここは一つ腹をくくりましょう!


「あ、あれすごーい、ちょっと見に行きましょー(棒読み)」


 そう路上パフォーマンスを指差して、ラファの腕に手を絡ませて引っ張ります。必然体格に違いのある私のこと、ラファにしなだれかかるようになるのですが、当然計算のうちです。ふふふ、どうでい。これで年頃の男女らしくなるってもんよ。それにしても丸太みたいな腕だな。


「お、おい?」


 ラファはガチンと大きな体を強張らせて変な声を出しています。ぐいぐい腕を引っ張る私の後を油を差してない蝶番みたいに体をギシギシ言わせながらついてくるのを見ると、これはやはり意識はされているのかな? と思っちゃったりもして、脳内にお花畑です。ほら、夢を見るのは自(ry


 とにかく、せっかくのお祭りですから、楽しむついでに、ちょっとでも距離を縮めましょう!


「おい、シャ、シャル」

「わー、すごかったですねー。逆立ち皿回しなんて初めてみましたー。では次イキマショー」


 ラファに喋る隙を与えずにそのまま引っ張りまわします。しばらくラファはあーだかうーだか言っていたようですが、次第に落ち着いたのか、体の硬さもとれて自然に手を繋げるようになりました。硬くてゴツゴツした手のひらがとても暖かいです。


 それにしても頭は無遠慮に撫でるくせに、恋人っぽく手を繋げるようになるだけでこんななんて、初恋か!


 いや、その普段の淡々とした様子や威圧感モリモリの容姿と、微妙に垣間見える初々しさのギャップが、また良いのかもしれませんがね! ビバ、ギャップ萌え。


 露天で買った飲み物に口をつけながらそんなことをつらつら考えていると、ラファが不思議そうに私を見ていました。


「シャル?」

「ああ、なんでもないですよ? ちょっとカンガエゴトしてただけです」

「そうか。まだ時間があるが、他に行きたいところはあるか?」

「うーん、でもそろそろ夕方ですから、やっぱりもう皇宮前の広場に行きませんか? せっかくだから良い場所で演奏聞きたいですしね!」

「わかった」


 そう言って、今度はラファのほうから、私の手を握ってくれました。ラファのほうから!


 おお、これはいい傾向です。微妙に手が震えている辺りおっかなびっくりであった感は否めませんが、むしろかわいいもんじゃないですか。


 何だかとっても楽しい気分になって、ニコニコしていると、ラファは私のほうを振り返って、しばらく私の顔をじっと見つめて、なぜかまた私の頭を撫でました。


 や、やっぱりまだ子ども扱いなのか!?


「行くか」

「…はい」


 でもかけられた声音は優しかったので、とりあえずは良しとしておきましょう。

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