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その四:ヨッ、この色男!

 さて、めでたく新たな親友(きょうはんしゃ)を得た私は、憂いも無くなり楽しい日々を過ごせるようになりました。そうそう、あの後ラファに――呼び捨てで良いって言われちゃいました☆――どうして私が食堂で働いているのを知って不機嫌になったのか聞いてみました。そうしたら「お前たちの演奏は嫌いじゃないからな」とかボソッと言われました。


 うおおおおおおお。


 さすが親友! 心の友とはラファのためにある言葉ですね! 「そんなんじゃない」って、別に謙遜しなくてもいいんですよ。ヨッ、この色男!


 そういうわけで、私はこれまで通り、夜は酒場で演奏し、ラファはそれを静かに聴き、控え目な拍手を送ってくれるという日常が出来上がったのでした。一つ予想外だったのは、なぜか日中私が働く食堂にもラファが出没するようになったことですが、お陰で我らの財布もささやかに潤うってもんなので、別にだからどうということでもありません。


 話し相手が増えたということでもありますし。


「ラファはどうして傭兵をやっているんですか?」

「…他に取柄が無いからな」


 ああ、確かにガッシリゴツゴツしているし、見るからに傭兵って感じですもんねー。騎士団とかにはある程度身分が保証されていないと入れないのですが、世の中そうじゃない人も沢山いますし、そういう中で腕っ節に自信のある人は、大概傭兵ってことになりますよね。


 そういえば、


「ご出身は?」

「エリャイン諸侯国だ」


 エリャイン諸侯国は、スヴェレン皇国の隣のワリと大きな国です。国同士は結構仲が良いです。


「どうしてスヴェレンに?」

「…詳しくは言えないが、長期の護衛の依頼でな」


 往復の護衛だけれど、依頼主がしばらくここに滞在するとかで、帰路に発つまでの間何もしないでいるのもなんなので、細々とした仕事を受けているらしいです。


「ちなみに年齢は? 私は今をときめくハタチですが」

「…二十六だ」


 見えねえ。思わずぽかんと口を開けた私にも、ため息一つで済ませてくれたラファは、やはり出来た人間だと思います。


「…お前は、どうして音楽を?」

「んー、どうしてでしょうねー」


 なお今食堂は三時休憩です。コックさんが親切に作ってくれたまかないのお菓子をほお張りながら答えます。


「あのー、私ってかなーり要領悪いんですよね。包丁持ったら手を切りそうになるし、薪割ろうと思ったら斧がすっぽ抜けたり。さすがに何も無いところでこけたりはしませんけど」

「それは…」


 居たたまれない視線を向けないで!


「なので私が稼ぐにはこうして食堂の給仕みたいな簡単な仕事か、体を○○(ピー)しかなかったわけです。ですが! そんなある日、私の父が皇都に行ったとき、お土産を持ってきてくれたのです!」


 それは簡単なつくりの笛でした。それでも、私は、息を吹き入れるだけで誰にでも音を鳴らすことの出来るその楽器に感動してしまったのです。


「練習して色んな曲ができるようになって。それからお父さんは毎回お土産に色んな楽器や楽譜を持ってきてくれたんです」


 ラファは黙って私の話を聞いています。まあ口数多い人じゃないっぽいですからね。


「それが楽しくて楽しくて、他の人にも音楽の楽しさを伝えたくて、一念発起したわけですよ」

「そうか」


 ラファの目元が緩んでいます。このラファと言う人は、基本的に目元以外の表情が変わらないので、慣れないと分かりにくいです。慣れるとそれなりに表情が豊かなのが分るのですが。


「でも、まだまだ自信無いんですよねぇ。楽隊の皆さんが私が選んだ曲を毎回やってくれるので、雰囲気は少し変わってきたと思うんですが。私なんかまだまだですし」

「少し…?」

「ちょっとは私の演奏も役に立っているんでしょうか」


 実はいつも気にしていたりします。今までもミュリーちゃんに相談したりもしたのですが、まあ、酒場に来たことの無いミュリーちゃんに言っても仕方がありません。


「…ない」

「はい?」

「気にすることはない」


 ええと、何だかラファさんがじっとこっちを見つめてきていますが。それはどういう意味なのでしょうね? もしかして慰めてくれてるんでしょうか。


 とりあえず、言葉少なくてよく分からないので、頭上に「?」を浮かべながらしばらく見ていると、おもむろにラファさんが手を伸ばして、私の頭の上に置きました。まさかの鷲掴み!? とかビビッていたら、撫でられるだけでした。


 って、い、意味分からん! で、でもこれは多分やはり励ましてくれているんですよね! いきなり無言で頭撫でるとか少々思考がアレしているような気もしますが!


 わたわたしていると、ラファは手をどけて、今度は申し訳なさそうな雰囲気。


「すまん」

「へ?」

「俺は人付き合いが苦手でな…」

「…」

「…」


 …だから言葉足りないよ!


 ええと、私の超高性能脳味噌を駆使して補完すると、人付き合いが苦手でどうしていいかわからなかったから思わず撫でちゃいました、テヘ♪ ってことですかいな?


「…(目そらし)」


 マジですか。っていうか幾らなんでもビックリデスよ! 多少落ち込んでるからってさらっと頭撫でるとか、子供かい!


「…すまん」


 まあ、案外嫌じゃなかったから別に良いんですけど。それに分かり辛すぎましたが励ましてくれてたようですし。


 なので礼儀としてとりあえず。


「まあ、ありがとうございます?」


 …なぜそこでまた目をそらす。


「すまん」


 結局意味が分からないままで終わりました。


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