深愛
「…それで全部かい?」
沈黙を突き通していた私が口を開く。
「えっ?」
俯いていた顔を上げて、私を見る。
その顔は絶望と疑問が入り交じった複雑なもの…。
私はそんな彼の目を見ながら言った。
「それで全部を吐き出せたかい?」
彼はまた俯き、言った。
「…心が重くなっただけです。」
「…そうか。」
私はそう言って、彼を抱きしめた。
「えっ?」
彼が驚きの声をあげるが、気にしない。
壊れてしまいそうな彼を、強く、強く抱きしめた。
「い、痛っ…。」
痛いだろうが、受け止めてもらう。
小さな彼を私の腕の中に包み込む。
「私は、君が好きだ。」
ポツリと彼の耳元で囁く。
彼は訳がわからないという顔で私を見ていた。
「過去の君も、今の君も、未来の君も、私は愛する。だから、だから、私を君の傍にいさせてくれ。私を拒絶しないでくれ。」
何が『だから』なのかはわからないけど…。
ただ、私はこう言った。
彼の体は小刻みに震えていた。
目からは涙が流れていた。
「ぼ、僕を、愛してくれるんですか?僕に“愛”をくれるんですか?こんな僕を?」
涙声だった。
「あぁ、私は君を愛する。」
彼はそれに安堵したのか、目を閉じた。
「嬉しいです。」
ポツリと彼は呟いた。
「今、僕はわかりました。僕は、“愛”が欲しかったんですね。じゃないとこんなに嬉しい筈がない。」
彼は続けた。
「そして、僕が本当に欲しかった“愛”は、貴女からの“愛”だったんですね…。僕は、貴女から、愛してもらいたかったんだ。もう、何もいらないです。貴女さえいれば、僕は、進んでいける気がします。」
「あぁ、進もう。私と共に…。私がずっと君の傍にいよう。」
私達はキスをした。
ただ、触れるだけのキスをした。
お互いの存在を確かめるために…。
朝が来た。
私は彼に挨拶を言い、彼は律儀に返した。
彼を抱えて、椅子に座らせ、食事をする。
会話が弾んでしまい、食べるのも忘れてしまう。
急いで着替えて、ドアを開ける。
今日もまた、私は彼の車椅子を押す。
無理矢理という感じがいたしますが、これでこの話は終わりです。
読んでくださった皆様ありがとうございました。
後はあとがきにてお会いしましょう。