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悲鳴

私が寝室に入った時、彼は床で寝ていた。


布団は敷いておいたのにな…。


彼を抱き抱え、布団に寝かせようと思い、触れたら彼の目が開いた。

その目に輝きはない。


虚ろで絶望を持った目。

その目で私を見た。


泣いた跡があった。


私がいない間にまた、発症したのかもしれない。


「僕は、なんで、こんなに苦しまなければいけないのですか?」


彼は私に問う。

その声は震えていた。

彼の涙がまた溢れ、頬を伝い、床に落ちた。


私はただ黙っている。


「僕は、なぜ、手足が使えないんですか?」


彼はまた私に問う。


それの返答を私はしない。

できない。

今は彼の嘆きを聞いてやることしかできない。

彼の本当の気持ちを受け止めるために…。


「いいですよね、皆、幸せそうに笑えて…。貴女も、皆も、僕は羨ましいです。」


彼のその気持ちは嫉妬で…。


「立ちたい。歩きたい。走りたい。自分でご飯を食べたい。」


その願望は強欲で…。


「もう、何もかもが嫌です。」


それは世界に対する憤怒で…。


「僕は、どうすればいいんですか?これから…。黙ってないで教えてください。」


抱きしめたい。

それでも私は沈黙を突き通す。


「僕が教えてと言ってるんです。教えてください。」


沈黙を突き通す私を見て、彼は苛立ったのか、私を睨んだ。


そして叫んだ。


「教えろ!!」


その雰囲気に私は少し押された。

それでも私は沈黙を突き通す。


彼の体は怒りに震え、鋭い目付きで私を威嚇する。

息も荒く、肩で呼吸をしている。


「貴女は!貴女は!貴女は!貴女は!!僕に何も教えてくれないんですか!!?」


彼の目が狂気を帯びてくる。


「なぜ、僕はこんなに苦しまなければいけない!?なぜ、手足が使えない!?なぜ、皆は笑ってる!?なぜだ、なぜだ、なぜだ!!?」


叫びすぎたのか、彼は声が枯れてきた。


体は力が抜け、開いていた目は収縮し、涙が溢れた。


俯いたその顔をすべてに絶望したようだった。


「僕は、人並みの幸せが欲しいですよ…。」


最後にポツリと彼は言った。


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