特権
私は立ち上がり、彼女を見る。
思えば、お互いにこんな風に真っ直ぐ向き合ったことがないかもしれない。
一呼吸置き、私は言った。
「どうやら、私の勝ちみたいだな。」
それを聞いた、彼女は少し笑って…。
「まだ、決まってないですよ。それに、彼が貴女のことを好きだったのは昔のことです。」
「そうだな。昔のことだな。」
私は薄く笑いながら、言った。
「だが、ありがとう。お前のおかげで気持ちが晴れた。」
「…貴女が私に礼を言うなんて、何か悪いものでも食べましたか?」
茶化すなと思った。
だが、今はこの気持ちが消える前に、彼の元に行くべきだと思った。
「本当にありがとう。」
「…どういたしまして。」
私は走り出した。
彼女が言いたかったことはたぶん、彼には私が必要だと言うこと。
彼女のこの決断は凄いと思う。
私では絶対にできない。認めれない。
彼を幸せにするのは私だと信じてるから。
その役を譲ることは私にはできない。
だが、彼女は認めた。
今、私にはそんな資格がないことを自分で認めることができた。
彼女の方が私より何倍も凄いのかもしれない。
悔しいが、それは認めざるを得ない。
家に着く。
ここまで走ってきてしまったせいで息が上がっている。
寝室のドアの前まで来て、呼吸を整え、ドアノブに触れる。
…少し怖い。
もし、彼が私を受け入れてくれなかったら…。
考えるだけで嫌気がさす。
…私は彼の“特別”になりたい。
そうなりたくて…。
私はここまで来た。
だが、悩む必要はなかった。
昔から、私は彼にとって“特別”だったのだから…。
だから、今、また私は“特別”になるために…。
私はドアを開けた。