対峙
「今日は彼、来なかったんですね。」
「………。」
「私に何も言い返さないってことは彼に何かあったんですね…。」
「…あぁ、お前が彼に残してくれた遺物のせいでな。」
「私が残した?…麻薬ですか?」
「あぁ、壊れる前の彼に逆戻りした気分だよ…。」
それを言われたあの女は狼狽えて、頭を下げて、こう言った。
「すいません。」
私は驚いた。
こいつが謝るところなんて一度も見たことがなかったからだ…。
下げていた頭を上げて、こいつは続けて言った。
「私は、間違っていました。彼が欲しくて、彼を手に入れたくて、私は…。」
その目には涙が浮かんでいた。
今さら、泣いたところで…。
「私はあの日、告白したんです。彼に。」
それがどうした。
そんな話をして何になるんだ。
「彼と私と貴女は昔、友達でしたから…。まぁ、貴女とは、友達、というより恋敵でしたけど…。」
なんなんだ。
この女は…。
そんな昔の話…。
「貴女は気づかなかったんですね…。そんな昔から、彼は貴女に惹かれていたと思いますよ。」
えっ?
「彼はいつも貴女を見てました。だから、私は焦って…。たくさん、たくさん、アピールしました。でも、彼はいつも、私に振り向いてくれることはなかった…。」
えっ?えっ?えっ?
「今、思えば、私はそれが憎かったんですよ。憎くて、彼の視線を独り占めしたくなって…。」
「待ってくれ!」
「はい、なんですか?」
「惹かれていた?彼が、私に?」
「えぇ。私が告白した時、それが明らかになりましたけどね…。聞きます?私が告白した時の彼の返事…。」
私は首肯した。
それを見た、この女は少し微笑んで…。
「『ごめん。僕、君の気持ちには答えれない…。僕は、実は、彼女のことが好きなんだ…。もう、片思い歴、十年になりそうだけどね…。』って…。最後の方は微笑んでた。貴女が羨ましかったですよ…。」
それを聞いた時、私は、悩んでいた答えが決まった。