無情
結局、私は何もできず、彼が気絶するまで立ち尽くしているだけだった。
彼が気絶した後、寝室へ連れていき、壁にすがらせておいた。
彼が目を開けたのはそれから三十分程した時だった。
私を見て、発した言葉は…。
「あっ、虫、は…?」
だった。
私はどうすればいいのかわからなかった。
彼にどういう風に接すればいいのかがわからなくなってしまった。
だが、私は無意識に…。
「私が退治した。だから、大丈夫だ。」
と言ってしまった。
それを聞いた時の彼の顔は弱々しくて、儚くて、悲しい笑顔だった。
私もそれを見て、笑顔を見せた。
自分でもわかるほど、ひきつった笑顔だったと思う。
それは幻覚だと言ってしまえば良かったのかもしれない。
だが、私にはこれしか言えなかった。
無意識に私は彼を抱きしめた。
彼もそれを受け入れて、私の腰に腕を回した。
私も彼も震えていた。
私は悲しみから来る震えで。
彼は恐怖から来る震えで。
もしかしたら、私はどこかで間違っていたのかもしれない。
そのせいでお互いが傷ついている。
彼を守りたい。
でも、それはただの願いで…。
彼を守れていない。
その無力感で辛くなった。
「僕に、何があったんですか?」
不意に彼が話かけてきた。
「貴女なら、知っているんじゃないですか?教えてください。」
「…教えれない。」
それはできない。
それはしてはいけない。
「なぜですか!?」
彼は声を張り上げて言った。
予想以上に大きな声だったので、私はビクッとしてしまった。
「あっ、すいません…。」
その後はお互い、何も言わず、同じ布団に入り、寝た。
空気が気まずくなったまま、今日は終わってしまった。