最悪
「紅葉が綺麗だな。」
昨日言った台詞をまた言う。
「そ、そうですね。綺麗だと思います。」
昨日までと違うことは彼が返答してくれること。
「まぁ、君の方が美しいがな。」
こうやってからかうこともできる。
「ふぇ?あ、ありがとうございます。」
それに対する反応がやはり可愛い。
顔を真っ赤にするところを見るなんて本当に久しぶりだ。
こんなやりとりをしている間に学校が見えてきた。
「ほら、あれが私たちの学校だ。」
「お、大きいですね。」
「そうか?私の本家よりかは小さいが…。」
「……あれよりも大きいってどういうことですか…。」
「金持ちだからな。」
「…忘れてました。」
そんなやりとりをしている間に校門前。
待っていた先生がこちらにやってきた。
「あの人、誰ですか?」
と彼が問う。
「あの学校の中で一番信頼できる先生、だな。階段を上がる時などに手伝ってもらっている。」
「へぇー。君に一番信頼できる先生と言われるなんて嬉しいな。」
いつの間にか、目の前まで来ていた。
「本当のことですよ。」
「…そんなことよりも、目覚めたのかい、彼は?」
「あっ、お世話になってます。」
「あぁ、別に構わない。しかし、驚いたな…。昨日まで本当は人形なんじゃないのか?と疑っていたが…。」
「先生、ちょっと話があるので来てください。」
先生を連れて、少し彼から遠ざかり、彼の現状を伝える。
先生は少し驚いた顔をしたが、すぐに真剣な顔になった。
「そうか。記憶喪失か…。」
「はい。少し予想外なことです。」
「だが、君にとっては好都合じゃないのか?彼は覚えてない方がいいと思うが…。」
「まぁ、確かにそうですね。ですから、彼の記憶を刺激させるようなものをできるだけ隠しておきたいのです。」
「それで、俺が先に先生方に伝えておいてほしいということか…。」
「はい。お願いします。」
「あぁ、わかった。」
よし。これでいい。
と思って振り返れば…。
…彼がいない。
どういうことだ?
「わっわっわ!」
彼の声が聞こえた。
そちらの方を向いてみると…。
彼の車椅子がもうスピードで坂を下っていた。
サイドブレーキを入れるのを忘れていた!!
私も駆け出した。
くっ!
手遅れか?
と思いながら走る。
追いつけない。
距離が開いていく。
もう坂が終わってしまう!
と思った時に彼の車椅子が動きを止めた。
誰かが止めてくれた。
やっと追いつき、息も絶え絶えでその止めてくれた人に…。
「ありが、とう、ござ、います。」
と礼を言った。
「いえいえ。気をつけてくださいよ。彼が怪我してしまったら困りますからね。」
聞き覚えのある声…。
私ははっとしてその声の持ち主の顔を見た。
それは…。
あの女だった…。