歓喜
叫んだ私はまず落ち着くために…。
「落ち着け、落ち着くのよ私、落ちちゅけ。」
…噛んだ。
声を出した方が私は平常心を保てるのだが裏目に出てしまった。
声を出す時点で恥ずかしいのに、さらに恥ずかしくなった。
「大丈夫ですか?」
その優しさが痛い…。
「あ、あぁ、大丈夫だ。」
「良かった…。」
彼は笑顔で安堵してくれた。
だけどその次の言葉は…。
「それで、えっと、どなたでしょうか?」
私を固まらせるのには十分な言葉だった。
再起動にはかなりの時間を有した。
いや、数秒ほどなのかもしれないが…。
記憶喪失…。
私は愕然とした。
いや、待てよ…。
ある意味好都合ではないか。
彼にとってあの記憶はない方がいいし…。
うん、別にいいんじゃないか?
いや、しかし…。
「あの…。」
彼に呼ばれたので思考を一時中断する。
「お姉様、でしょうか?」
「……えっ?」
今、彼はなんと言った?
お姉様?
私が?
いや、嬉しいですが…。
「いや、姉ではない。」
とりあえず返答をしておかねば…。
「じゃ、じゃあ家族ですか?それとも友達ですか?」
その問いの中に『彼女』という選択肢はないのだろうか…。
いや、彼女になれたら嬉しいけども…。
「一応友達、だな。」
嘘を言っても無駄なので本当のことを言っておこう。
「友達…。分かりました。それで、あの、ここはどこですか?」
「ああ、ここは私の家だ。」
「そうなんだ…。えっと、なぜ僕は君の家に?」
うーむ、それは返答に困るものだな…。
「君の世話をするためだ。」
とりあえずこう答えておこう。
「お世話?どういうことです?」
「君は意識不明だったのだよ。」
少し嘘をつく。
意識がないというのは本当だからな…。
「意識不明?」
「まぁ、ほぼ植物人間状態だったが…。」
「植物人間!?」
「あぁ、今から説明しよう。」
私は一通り説明した。
あの女に関わったことはとりあえず言わないで、手足はほとんど使えないこと、監禁された恐怖で精神病になり、悪化して植物人間状態になった、と。