第7話 査問会? いいえ、残業代の請求です
ギルド職員「君、ダンジョンで何をしたんだ」
透「規定通りの清掃業務です(キリッ)」
話が噛み合いません。
Cランクダンジョンからの帰還後。
俺たちは、地上にある『探索者協会』の取調室――もとい、応接室に呼び出されていた。
部屋には重苦しい空気が漂っている。
目の前には、眉間に深いシワを刻んだスーツ姿の職員。
隣には、なぜかドヤ顔で紅茶を飲んでいる如月凛。
そして、早く帰ってコンビニ弁当を食べたい俺。
「……単刀直入に聞こう」
職員が重い口を開いた。
「相馬透くん。君は、ボス部屋で何をした?」
ギロリ、と鋭い視線が飛んでくる。
やはりバレていたか。
俺は冷や汗をかかないように表情筋を固めた。
ダンジョン内での行動は、すべてウェアラブルカメラで記録されている。俺があのアラクネの巣を「掃除」したことも、当然把握されているはずだ。
問題は、それが何の罪に問われるかだ。
自然保護法違反? それとも、無許可の建築物解体?
「……掃除をしただけです」
「掃除?」
「はい。部屋が汚れていたので、原状回復を行いました。契約書にも『現場の美化に努めること』と書いてあります」
俺はマニュアル通りの完璧な回答をした。
職員がこめかみをピクリと震わせる。
「ふざけているのか? 我々が見たいのは、これだ」
彼がタブレットをスライドさせる。
そこに映っていたのは、あの一瞬で「空っぽ」になったボス部屋の比較画像だった。
「アラクネ・クイーンの反応消失。部屋の地形データの改変。これほどの現象、Sランクの広範囲魔法でも不可能だ。君は一体、どんな『遺物』を使った?」
なるほど、俺が違法なマジックアイテムを使ったと疑っているわけか。
そんな金があったら、もっとマシなアパートに住んでいる。
「何も使っていません。ただのスキルです」
「嘘をつくな! Fランクの清掃員にそんなスキルがあるわけがないだろう!」
職員が机を叩く。
話が平行線だ。これだから役所仕事は困る。
俺が溜息をつこうとした時、隣の凛がカップをことりと置いた。
「そこまでになさい。私の『師匠』を侮辱することは許しませんよ」
凛とした声が響く。
彼女はSランク探索者。ギルドにとってもドル箱スターであり、発言力は絶大だ。職員がたじろぐ。
「き、如月くん。しかしだね、これは国家の安全に関わる問題で……」
「彼は不正などしていません。ただ、常識の物差しでは測れない『規格外』なだけです」
凛が胸を張って言い切る。
いや、俺は規格内のFランクなんだが。
「証明しましょう。水晶を持ってきてください」
凛の指示で、魔力測定用の水晶玉が運ばれてきた。
手をかざすことで、その人間の魔力量と適性ランクが表示される装置だ。
「相馬くん、手を」
「……へいへい」
言われるがまま、俺は水晶に手を乗せた。
職員が固唾を飲んで見守る。
もしここでとんでもない数値が出れば、俺は実験動物行き確定かもしれない。
ブォン……。
水晶が鈍く光り、数値が表示される。
【魔力量:5(平均的な一般人レベル)】
【適性ランク:F(清掃員、荷物持ち)】
「……は?」
職員が目を点にした。
凛も「えっ?」と小首を傾げている。
俺は心の中でガッツポーズをした。
そうだ。俺の『廃棄』スキルは、魔力を使っているわけではない。システム上の「削除コマンド」を実行しているだけだ。だから魔力測定には引っかからない。
「見ろ。ただのFランクだ」
「ば、馬鹿な! 故障か!?」
職員がバンバンと水晶を叩くが、数値は変わらない。
「……ということで、疑いは晴れましたね?」
俺は立ち上がった。
これ以上、無給で拘束されるのは御免だ。
「ま、待て! まだ話は終わって――」
「ああ、そうだ。一つ忘れていました」
俺はポケットから、クシャクシャになったレシートを取り出し、机の上に叩きつけた。
「ここまでの交通費と、拘束時間の時給。きっちり請求させてもらいます。振込先はいつもの口座でいいですか?」
職員が口をパクパクさせて固まる。
俺は呆気にとられる大人たちを背に、堂々と部屋を出ていった。
まったく、とんだ災難だった。
早く帰って、十万円で買った高級肉を焼こう。
――しかし、俺は気づいていなかった。
このやり取りが、ギルド上層部の「監視リスト」に俺の名前を刻み込む決定打になったことを。
『判定不能の異常存在』として。
◇
**【ギルド裏掲示板(職員限定)】**
:例の件、どうだった?
:【報告】魔力測定の結果は「F」。異常なし。
:は? じゃああの映像は?
:誤検知か、あるいは……
:測定機の上限を超えていて「一周回って初期値」が表示された可能性もある。
:↑それ魔王クラスだぞ……
:とりあえず「要監視対象(Sランク相当)」に指定。刺激するなよ、絶対。
ギルドの尋問を「時給請求」で煙に巻きました。
実力を見せつけておきながら、ステータスは「F」のまま。
これぞローファンタジーのロマンですね。
次回、大学編に戻ります。
主人公の知らないところで、大学内に「インベーダーファンクラブ」が発足しているようです。
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