第5話 掃除の邪魔をするなら、その汚い装備も「廃棄」していいですよね?
悪質な探索者「へへっ、その魔石をよこしな!」
主人公「(ゴミを増やさないでほしいなぁ)」
モンスターよりタチの悪い粗大ゴミが現れました。
地面に散らばった魔石の回収を終えた頃、背後から下品な笑い声が聞こえてきた。
「いやぁ、すごいねぇ! Sランクの如月凛ちゃんが、まさか男連れでダンジョンデートとは!」
振り返ると、三人の男たちが立っていた。
全員がガラの悪そうな装備に身を包んでいる。ニヤニヤとした視線が、凛と俺を舐め回すように動く。
そして、後ろの岩陰にはもう一人。カメラを構えた男が隠れているのを俺は見逃さなかった。
(……なんだ? 配信荒らしか?)
最近問題になっている『ハイエナ』かもしれない。
有名配信者に絡んだり、ドロップ品を横取りしたりして、炎上商法で稼ぐ連中だ。
「何の用ですか?」
凛が冷徹な声で問いかけ、レイピアの柄に手をかける。
流石はSランク、瞬時に臨戦態勢だ。
だが、男たちのリーダー格らしき大男は、余裕たっぷりに肩をすくめた。
「おいおい、怖いねぇ。俺たちはただ、そこで拾った魔石を譲ってほしいだけだよ。ほら、君は金持ちだから要らないだろ? そこの貧乏そうな荷物持ちクンが持ってる袋、全部置いていきなよ」
男が顎でしゃくった先には、ゴミ袋を持った俺。
なるほど、俺はただの荷物持ちに見えているわけか。
「断る」
俺は即答した。
ふざけるな。これは俺が労働の対価として得た正当な報酬だ。たとえ一円だろうと渡す義理はない。
「あ? なんだテメェ、調子乗ってんのか?」
「Fランク風情がよぉ。怪我したくなかったら大人しく置いてけよ」
男たちが武器を抜く。
大剣、メイス、ダガー。どれも手入れが行き届いていない、錆びついた安物だ。
「師匠、下がっていてください。対人戦闘は禁止されていますが、正当防衛なら……!」
凛が俺を庇うように前に出る。
だが、俺はため息をついて、彼女の肩をポンと叩いた。
「いいから凛、手出し無用だ」
「えっ? でも!」
「掃除の邪魔だ。さっさと終わらせる」
俺は一歩踏み出し、男たちの前に立つ。
「ギャハハ! なんだァ? ゴミ袋片手にやる気かよ!」
「死んで後悔すんなよオラァ!」
リーダーの大剣が、俺の頭上から振り下ろされる。
殺す気か。まったく、ダンジョン内だからって無法が過ぎる。
こういう手合いは、本当に迷惑だ。
ルールを守れない人間に、刃物を持たせてはいけない。
(……危険物、か)
俺の目が、冷ややかに男たちの装備を見定める。
本来、俺のスキル『廃棄』は生物以外にも適用できる。
人間そのものを消すのは流石に犯罪だが――
その「持ち物」なら、ただの所有権の放棄だろ?
【対象をロック。種別:危険ドラッグ、不燃ごみ】
【所有者の同意なしに回収を実行します】
「――『武装解除』」
俺がボソリと呟いた、次の瞬間。
ガキンッ!
金属音が響くはずだった。
だが、空を切る音だけが虚しく響いた。
「……あ?」
大剣を振り下ろした男が、目を丸くして自分の手元を見つめる。
そこには、何もなかった。
握りしめていたはずの剣が、柄ごときれいさっぱり消滅しているのだ。
「は、はあ!? 俺の剣どこいった!?」
「おいリーダー、俺のメイスもねえぞ!」
「俺のナイフもだ!」
男たちが狼狽する。
当たり前だ。今この空間において、お前たちが持っていた武器はすべて「処理済みのゴミ」として異次元の処分場に送られたのだから。
「な、なにしやがったテメェ!」
「手品か!? ふざけんな、俺の鎧も……って、うわあああああ!?」
悲鳴が上がる。
武器だけじゃない。俺はついでに、彼らの薄汚れた鎧や服も「衛生的に良くない」と判断して処理しておいた。
結果。
そこには、パンツ一丁になった哀れな男たちが三人、寒風に晒されていた。
「ひ、ひいいいっ!?」
「な、なんだよコイツ! 服だけ消しやがった!」
「変態だーッ!!」
誰が変態だ。
「おい、そこのカメラ」
俺は岩陰に隠れていた四人目の男に視線を向ける。
「ひっ!?」
「その機材も没収されたいか?」
俺が右手を向けると、男は真っ青になって首を横に振った。
「逃げろおおおおお!」
「覚えてやがれ変態野郎ォォォ!」
半裸の男たちは、脱兎のごとく出口の方へ逃げ去っていった。
……静かになった。
やれやれ、これでやっと仕事に戻れる。
「……師匠」
後ろから、震える声が聞こえた。
振り返ると、凛が顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で俺を見ていた。
「す、すごいです……!」
「あ?」
「相手を傷つけず、戦意だけを喪失させる『完全平和主義』の極意……! しかも、あの一瞬で装備だけを転送させるなんて、どれほどの魔力制御があれば可能なの!?」
いや、ただのゴミ回収なんだけど。
「しかも、パンツだけ残すなんて……師匠、慈悲深いんですね……!」
いや、流石に全裸にしたら俺が捕まるだろ。公然わいせつ幇助で。
とりあえず、彼女の中での俺の評価はまた妙な方向に上がったようだった。
◇
**【D-Tube 某探索者の配信アーカイブ(炎上中)】**
:クッソワロタwwwwwwwww
:パンツ一丁wwwwwwww
:これ放送事故だろwwww
:【速報】インベーダー、対人戦も最強だった
:武器破壊スキルか? いや、服まで消えてたぞ
:ハイエナ共が完全にわからせられてて草
:インベーダーさん「ゴミ(人間)は分別できないので、包み紙(服)だけ捨てました」
:↑その解釈こわすぎだろ
:結論:インベーダーには逆らうな。身ぐるみ剥がされるぞ
人間相手には「装備剥ぎ取り(強制)」で対抗しました。
物理的に社会的に死にましたが、命があるだけマシでしょう。
次回、ダンジョン深部へ。
そろそろ「本当のボス」が出てきてもいい頃ですね。
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