第4話 Cランクダンジョン? ああ、ゴミの量が多いって意味ですよね?
凛「この階層は毒を持つ魔物が群れで現れます。解毒ポーションは持ちましたか?」
透「ゴミ袋なら持ったけど」
遠足に来た小学生と、清掃業者くらいの温度差があります。
週末。
俺と凛は、都内にある『渋谷Cランクダンジョン』の入り口に立っていた。
Cランク。それは一般の探索者にとって一つの壁だ。
出現するモンスターは凶暴化し、特殊な能力を持つ個体も増える。生半可な装備で挑めば、骨も残らないと言われる魔境。
そんな危険地帯の前で、如月凛はフル装備で仁王立ちしていた。
「師匠、装備の確認をお願いします!」
彼女が身に纏っているのは、ミスリル銀で作られた輝く軽鎧。腰には魔力を帯びたレイピア。背中には予備のポーションや緊急脱出アイテムが詰まった高級リュック。
総額で数千万は下らないだろう、Sランクに相応しいガチ装備だ。
道行く探索者たちが、「あれ如月凛じゃないか?」「すげぇ装備……」と噂している。
対して、俺。
「うん、問題ない」
ユニクロのパーカー(灰色)。
動きやすいジャージ(黒)。
ホームセンターで買った厚手の軍手。
そして右手に握りしめた、業務用の大型ゴミ袋(四十五リットル)。
「……あの、師匠?」
「なんだ」
「武器は? 防具は?」
「動きにくいから置いてきた。汚れるし」
凛が絶句している。
だが、俺にとってはこれが正装だ。掃除をするのに鎧を着てくる馬鹿がどこにいる。重いし、狭い隙間のゴミが拾いにくくなるだけだ。
「い、いえ……きっとそれが達人の境地なんですね。『肉体こそが最強の矛であり盾』という……!」
「いや、単に金がないだけだが」
俺のボヤキは、彼女のポジティブな解釈にかき消された。
まあいい。早く終わらせて十万円もらおう。
◇
ダンジョン内部は、湿った洞窟のような構造になっていた。
Fランクと違って空気が淀んでいる。一般人なら恐怖で足がすくむレベルの魔素濃度だ。
「来ます! 前方、反応多数!」
凛が鋭い声と共にレイピアを抜いた。
暗闇の奥から羽音が響く。
現れたのは、子供の頭ほどもある巨大な蜂の群れだった。
『キラー・ホーネット』。毒針を持ち、集団で獲物を肉団子にするCランクの厄介者だ。その数、ざっと五十匹。
「くっ、いきなり群れですか……! 師匠、私が前衛で引きつけます! 師匠は隙を見て範囲魔法を――」
凛が前に出ようとする。
だが、俺はそれを手で制して、一歩前に出た。
「下がってていい」
「えっ? でも、あの数は物理攻撃じゃキリがありません!」
「関係ない」
俺は群れを見上げる。
ブンブンと飛び回る羽音が耳障りだ。
(……うわ、めっちゃ湧いてるな)
俺の感覚は、完全に夏場の生ゴミにたかるコバエを見るそれだった。
一匹ずつ叩き落とす? 面倒くさい。
俺は視界全体をぼんやりとフォーカスする。
個体を狙う必要はない。空間ごと認識すればいい。
【対象範囲をスキャン中……】
【種別:害虫(多数)】
【まとめて廃棄しますか?】
脳内のウィンドウに『YES』と念じる。
「――『一括廃棄』」
俺が指をパチン、と鳴らした瞬間。
世界から羽音が消えた。
「え……?」
凛が間の抜けた声を上げる。
五十匹いたはずのホーネットの群れは、一匹残らず消滅していた。
死体が落ちることもない。ただ、最初からいなかったかのように空間が綺麗になっているだけだ。
バラバラバラ……。
遅れて、空中に残された魔石だけが、雨のように降り注ぐ。
「よし、綺麗になった」
俺はゴミ袋を広げ、地面に落ちた魔石を拾い始めた。
Cランクの魔石は単価が高い。これならバイト代とは別に結構な臨時収入になりそうだ。
「……し、師匠?」
「ん? ああ、拾うの手伝ってくれるか?」
「今、何をしたんですか? 魔法の波動すら感じませんでしたが……」
「殺虫剤を撒いただけだ」
「さっちゅう……ざい……?」
凛が震える手でメモを取っている。
『無詠唱かつ、魔力痕跡を残さない広範囲殲滅魔法。コードネーム:サッチュウザイ』
なんか物騒な解釈をされている気がするが、訂正するのも面倒だ。
「行くぞ。このエリアの掃除はまだ残ってる」
「は、はい! 一生ついていきます!」
どうやら彼女の勘違いは、解けるどころか悪化しているようだった。
まあ、報酬さえくれれば何でもいいけど。
そうして俺たちが奥へ進んでいく様子を――岩陰からカメラを構える、別の探索者パーティーが見ていることにも気づかずに。
◇
**【D-Tube 某探索者の隠し撮り配信】**
:おい、今の見たか!?
:如月凛と、あの作業着の男だろ?
:蜂の大群が一瞬で消えたぞ……
:あいつ何もしてなくね? 指鳴らしただけじゃん
:編集乙
:いや、これ生配信だぞ
:やっぱあいつヤバいって! 「インベーダー」は実在したんだ!
:隣の凛ちゃんが信者みたいな目になってて草
害虫駆除完了。
次回、その様子を盗撮していたタチの悪い探索者グループに絡まれます。
「俺の掃除を邪魔する奴は、ゴミとして処理していいよな?」
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