第3話 Sランク美少女に勧誘されたけど、時給が発生しないなら帰ります
主人公「弟子? お金くれるなら考えますけど」
ヒロイン「(ゴクリ……なんという守銭奴プレイ……!)」
会話が噛み合っていません。
静寂。
大学の講義室が、これほど静まり返ったことがかつてあっただろうか。
目の前には、国民的アイドルと言っても過言ではないSランク探索者、如月凛。
机の上には、俺の名前が書かれたシフト表(動かぬ証拠)。
そして周囲には、殺気にも似た嫉妬の視線を向けてくる数百人の学生たち。
詰んだ。
完全に詰んだ。
「……えっと、人違いでは?」
「まだ言いますか」
凛は呆れたように溜息をつくと、ズイと顔を近づけてきた。いい匂いがする。高いシャンプーを使っているに違いない。
「シフト表の日付、時間、場所。そして貴方のその背格好。これだけ状況証拠が揃っていてシラを切るつもりですか?」
「……」
「それに、私には分かります。貴方から漂う、只者ではないオーラが」
いや、それはただのバイト疲れと加齢臭予備軍だと思いたい。
隣の席では、友人の山下が「お、お前……マジでインベーダーだったのか……?」と口をパクパクさせている。後で説明するのが面倒くさいこと山のごとしだ。
「とにかく、ここでは目立ちます。場所を変えましょう」
「あ、俺これから講義が」
「教授なら、私が話をつけておきました。『日本の未来に関わる重要な会議がある』と言って」
「一介の大学生を連れ出す理由が壮大すぎるだろ」
拒否権はないらしい。
俺は周囲の視線に背中を刺されながら、凛に腕を引かれて教室を出た。
◇
連れてこられたのは、大学の裏庭にあるベンチだった。
ここなら人は少ない。サボりの学生がチラホラいるくらいだ。
「で、何の用ですか。俺、こう見えて忙しいんですけど」
俺は露骨に不機嫌な態度をとった。
相手がSランクだろうが関係ない。俺の時給を保証してくれない相手は、すべて「時間の無駄」カテゴリーだ。
凛は俺に向き直ると、真剣な眼差しで頭を下げた。
「単刀直入に言います。私を弟子にしてください!」
「は?」
「昨日のあの技! 魔法障壁すら無効化する変異種を、指先一つで消滅させたあの技術! あれは既存のスキル体系にはないものです。どうしても、その極意が知りたいんです!」
彼女は熱っぽく語る。
どうやら彼女は、俺の『廃棄』を、何かものすごい必殺技だと勘違いしているらしい。
「断る」
「そ、即答!?」
「面倒くさい。俺はただの清掃員だ。人に教えるような立派なもんじゃない」
俺が背を向けて帰ろうとすると、彼女は慌てて回り込んでくる。
「待ってください! どうしてもダメですか? 私、こう見えてSランクですよ? 私の推薦があれば、貴方もすぐにトップランカーになれます!」
「興味ない」
「ええっ!? 名誉も地位も欲しくないんですか!?」
「そんなもんで腹は膨れないからな」
俺の返答に、凛は信じられないものを見るような目を向けてきた。
どうやら彼女にとって、探索者とは名誉ある職業らしい。
だが俺にとっては、ただの「割のいい肉体労働」だ。認識が違いすぎる。
「……分かりました。なら、こうしましょう」
彼女は少し考え込んだ後、財布を取り出した。
「私とパーティーを組んで、ダンジョンに同行してください。私の修行に付き合ってくれるなら、報酬をお支払いします」
ピクリ、と俺の足が止まった。
「報酬?」
「はい。貴方、お金に困っているんですよね? じゃなきゃFランクの清掃なんてやりませんし」
失敬な。清掃は社会インフラを支える立派な仕事だぞ。
まあ、金に困っているのは事実だが。
「……いくらだ」
「え?」
「時給だ。いくら出せる?」
俺が食い気味に聞くと、彼女は少し引いた様子で指を一本立てた。
「い、一回のエクスプローラー(探索)につき、十万円でどうですか?」
「――乗った」
即決である。
今のバイトの時給が千百円。五時間働いても五千五百円だ。
十万? 約百倍じゃないか。
Sランク探索者の金銭感覚、どうなっているんだ。
「け、契約成立ですね!?」
「ああ。ただし条件がある。俺は基本的に『掃除』しかしない。戦闘の指導とか、精神論とかは一切ナシだ。俺の背中を見て勝手に学ぶなら止めないが」
「背中を見て学べ……! なるほど、言葉ではなく実践で盗めということですね!」
いや、単に説明するのが面倒なだけなんだが。
彼女は勝手に目を輝かせている。
「分かりました、師匠!」
「師匠はやめろ」
「はい、師匠! では早速、週末に『Cランクダンジョン』に行きましょう!」
Cランク。
俺が普段入っているFランクとは段違いの危険地帯だ。
だが、今の俺の頭の中は「十万円」という文字で埋め尽くされていた。
ゴミ掃除をするだけで十万。こんなおいしい話はない。
「いいだろう。燃えるゴミの日程は週末だな」
「(燃えるゴミ……? 敵をそう呼んでいるの……? なんてストイックな……!)」
こうして、俺とSランク美少女の奇妙な師弟関係(契約内容はただのバイト)が結ばれてしまったのだった。
◇
**【SNSの反応】**
@大学裏の目撃者
おい、裏庭で凛ちゃんが陰キャと密会してるぞ!
なんか土下座(?)して頼み込んでないかあれ?
@特定班
あの男、相馬透っていうFランク探索者らしい。
成績は地味、スキルは不明。なんで凛ちゃんがあんな奴に?
@探索者マニア
会話盗み聞きしたけど、「一回十万」とか言ってたぞ。
もしかしてパパ活……?
@Rin_LOVE
↑ふざけんな! 凛ちゃんに限ってそんなわけないだろ!
これはきっと、我々には理解できない高次元の契約に違いない……。
時給1100円 → 日給100000円
大幅な昇給に成功しました。
チョロいのはヒロインか、それとも金に釣られた主人公か。
次話、いよいよ初の「Cランクダンジョン」へ。
Sランクの常識と、清掃員の非常識が交差します。
面白いと思ったら、ぜひブクマと評価をお願いします!
(評価ポイントが増えると、主人公の時給が上がる……かもしれません)




