第20話 深海の怪物? ただの漂着ゴミ(粗大)ですね
凛「海です! 水着です! バカンスです!」
透「猛暑です。労働です。ゴミ拾いです」
夏が来ました。
夏休み。
照りつける太陽、白い砂浜、そして青い海。
「師匠ーっ! 見てください、ニュー水着です!」
波打ち際で、如月凛がクルリと回ってみせた。
露出度の高い純白のビキニ。抜群のプロポーションが惜しげもなく晒されている。
周囲の海水浴客たちの視線が、彼女に釘付けになっていた。
「……おい、邪魔だ」
「えっ、感想それだけですか!?」
俺はトングをカチカチと鳴らしながら、彼女を退かした。
今の俺は、麦わら帽子に首タオル、そしてゴム長靴という完全装備だ。
「俺は遊びに来たんじゃない。夏季限定のリゾートバイト『海岸清掃(時給1500円)』に来てるんだ」
「むぅ……せっかく師匠を追ってこのビーチに来たのに!」
凛が頬を膨らませる。
知ったことか。この時期の海岸は稼ぎ時なのだ。空き缶、吸い殻、花火のゴミ。全てが金に見える。
ザパァァァンッ……!
その時、海面が不自然に隆起した。
ただの波ではない。沖合から、黒い山のような巨体が急速に接近してくる。
「キャアアアアッ!?」
「な、なんだあれ!?」
海水浴客の悲鳴が上がる。
海を割って現れたのは、巨大なイカ――いや、『クラーケン』だった。
全長は五十メートルを超えているだろう。ヌメヌメとした触手が、浜辺のパラソルを薙ぎ払う。
「キシャアアアアッ!!」
S級指定の海洋モンスターだ。本来なら深海にいるはずの怪物が、なぜこんな浅瀬に。
「師匠! 避難誘導を! 私が時間を稼ぎます!」
凛が浜辺に落ちていた流木を拾い、魔力を込める。
だが、水着姿で戦うのは無謀だ。
俺はため息をついた。
「はぁ……。これだから海は嫌なんだ」
俺の目は、クラーケンの巨体そのものではなく、それが撒き散らしている「汚れ」に向いていた。
奴の体表から滴り落ちる黒い粘液。
そして吐き出される大量のイカ墨。
海が汚れる。
透き通ったブルーが、ドス黒く濁っていく。
これは明らかな海洋汚染だ。
【対象をスキャン中……】
【種別:海洋投棄物、および有害廃液】
【判定:水質汚濁防止法違反】
「そこ、汚さないでくれます?」
俺はトングを海に向けた。
生物だろうが何だろうが、このバイトエリア(海水浴場)に漂着した「異物」は、すべて回収対象だ。
「――『漂着物回収』」
俺がスキルを発動した瞬間。
海水そのものが意志を持ったかのように渦を巻き、巨大な「網」の形を成した。
「ギョッ!?」
クラーケンが驚愕の声を上げる間もなく、水の網がその巨体を包み込む。
ズズズズズ……ッ!
五十メートルの巨体が、まるで脱水機にかけられるように圧縮されていく。
「ついでに『濾過』」
俺が指を鳴らすと、クラーケンごと周囲の海水が白く輝いた。
汚れ、粘液、イカ墨が瞬時に分解され、無害な塩水へと還っていく。
数秒後。
そこには、キラキラと輝く美しい海と――
水分を限界まで絞り取られ、スルメのようにペラペラになったクラーケンが、波打ち際に打ち上げられていた。
「……回収完了」
俺は乾いたクラーケン(元S級モンスター)をトングで摘み上げた。
軽い。完全に乾燥している。
「これ、燃えるゴミでいいのかな」
「し、師匠……?」
凛がポカンと口を開けている。
周囲の客たちも、パニックから一転、呆気にとられていた。
「イカ焼きにするには、ちょっと大きすぎるな」
俺はペラペラの怪物をゴミ袋(特大)に詰め込んだ。
やれやれ、大仕事だった。これなら特別手当が出るかもしれない。
俺は額の汗を拭い、再び空き缶拾いに戻った。
背後で、凛がスマホを取り出し、興奮気味に何かを打ち込んでいるのには気づかずに。
◇
**【SNSのトレンド】**
1位:海開き
2位:巨大スルメ
3位:インベーダーの水着(作業着)
@海水浴客A
見たか今の!?
クラーケンが一瞬で干物になったぞwww
インベーダーさん、海でも最強かよ。
@環境保護団体
あの浄化スキル、世界の海を救えるのでは?
原油流出事故とか一発で解決だぞ。
彼にノーベル賞をあげるべきだ。
@弟子入り希望ちゃん(凛)
【朗報】師匠、海でもブレない。
クラーケンを「燃えるゴミ」に分別しました。
あと、私の水着には最後まで無反応でした(泣)。
Q:海でS級モンスターに遭遇したら?
A:脱水して干物にしましょう。保存食にもなります。
【補足:なぜバイトをしているの?】
読者様から「もう大金持ちなのになぜバイトを?」と疑問に思われるかもしれません。
透いわく、「個人事業主(政府依頼)の収入は不安定だし、厚生年金と健康保険のために定職は絶対に辞めない」とのことです。
彼はモンスターより「将来の年金」の方を恐れています。
次回、そんな透のもとに、とある「お見合い話」が舞い込みます。
相手は……まさかの魔界の姫!?
(※もちろん、透にとっては迷惑な話です)
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