第2話 翌朝起きたら、なんか世界がバグってた件
主人公「なんか今日、キャンパスが騒がしくないですか?」
友人「お前、ニュース見てないのかよ!?」
一夜にして時の人になってしまったことに、本人だけが気づいていません。
翌朝。
俺、相馬透の朝は、憂鬱なアラーム音と共に始まった。
「……ふわ、眠」
重い瞼を擦りながら、枕元のスマホを探る。時刻は七時三十分。大学の一限には間に合う時間だ。
六畳一間の安アパート。壁は薄く、隣の部屋の目覚まし時計まで聞こえてくるこの部屋が、俺の城だ。
とりあえずニュースサイトを開く。天気予報と、電車の遅延情報を確認するのが日課だからだ。
だが、今朝のトップニュースは異常だった。
『正体不明の探索者、現る! Sランク如月凛を救った謎の男とは!?』
『ネットで話題の「インベーダー」現象、専門家は「映像加工の可能性も」と指摘』
『政府、ダンジョン管理法違反の疑いで捜査検討か』
画面を埋め尽くす物騒な見出しの数々に、俺は眉をひそめた。
「……インベーダー? なんだそりゃ、映画の宣伝か?」
物騒な世の中になったものだ。
どこかのダンジョンでテロでもあったのだろうか。まあ、Fランク清掃員の俺には関係のない話だ。
俺は興味なさげにアプリを閉じると、食パンを齧りながら着替えを始めた。
◇
大学への通学路も、いつもとは空気が違っていた。
すれ違う学生たちが、誰も彼もスマホを覗き込み、興奮した様子で喋っているのだ。
「見た!? 昨日のアーカイブ!」
「見た見た! あの瞬殺シーン、ヤバすぎでしょ!」
「作業着の男、何者なんだろ……軍の特殊部隊とか?」
あちこちから「サギョウギ」だの「シュンサツ」だのという単語が聞こえてくる。
新しい戦隊ヒーローでも流行っているのか?
講義室に入り、いつもの窓際の後ろの席――通称『陰キャの指定席』に座ると、すぐに友人の山下が鼻息荒く寄ってきた。
「おい相馬! 見たかよお前!!」
「……おはよう山下。朝から元気だな」
「挨拶してる場合じゃねえって! D-Tubeだよ! 昨日の如月凛の配信!」
山下は俺の目の前にスマホを突きつけてきた。
画面には、薄暗いダンジョンの映像が映っている。再生回数は既に一千万回を超えていた。バグみたいな数字だ。
「これ、昨日リアルタイムで見てたんだけどさ! マジで神回だったんだよ!」
再生ボタンが押される。
画面の中で、銀髪の少女――如月凛がオーガの変異種に追い詰められている。
ああ、これなら俺も昨日見たな。現場で。
(……ん?)
俺は少し嫌な予感がして、画面を凝視した。
映像の中で、凛が「逃げて!」と叫ぶ。
そこへ、フレームの外から一人の男が歩いてくる。
くたびれた作業着。
目深に被ったヘルメット。
首にはタオル。
手には軍手。
どう見ても、昨日の俺だった。
「……」
「見ろよここ! 『邪魔だ』って一言でボスを消滅させたんだぜ!? カッコ良すぎだろこのインベーダー!!」
山下が大興奮で机を叩く。
俺は冷や汗が流れるのを感じた。
インベーダーって、俺のことかよ。
「なあ相馬、こいつ何者だと思う? 国家認定のSSランクとかかな?」
「……いや、ただの清掃員に見えるけど」
「はっ、お前は分かってねえなぁ! これは『擬態』だよ! 達人は身を隠すっていうだろ? あえて底辺の格好をして、油断させてるんだよ!」
違う。
あれはユニクロで買った千円の作業着だ。
(……まあ、バレないか)
幸い、ヘルメットとマスクで顔は殆ど隠れている。声も洞窟の反響で少し変わっているようだ。
何より、Fランク大学生の俺が、あの「インベーダー」だなんて誰も想像しないだろう。
俺は安堵の息を吐いた。
「まあ、俺らには関係ない話だろ」
「えー、俺は特定班に期待してるけどなー」
山下が残念そうに席に戻っていく。
よかった。平和な日常は守られた。
俺は目立たず、騒がず、ただ時給分だけ働いて生きていきたいのだ。有名になんてなったら、バイトのシフトが組みにくくなる。
教授が入ってきて、一限目の講義が始まろうとした、その時だった。
ザワザワザワッ……!
廊下の方が、やけに騒がしい。
講義室の扉が、乱暴に開かれた。
「――失礼します!」
凛とした、鈴を転がすような声。
そこに立っていたのは、銀色の髪をなびかせた美少女だった。
昨日のボロボロの鎧姿ではない。清楚な私服姿だが、その圧倒的なオーラは隠せていなかった。
「う、嘘だろ……?」
「如月凛……!? なんでウチの大学に!?」
教室中がパニックになる。
Sランク探索者は、この国ではアイドル以上の存在だ。そんな雲の上の存在が、なぜこんなFランク大学の講義室に?
彼女は教室を見渡し――そして、窓際の後ろの席にいる俺と、バチッと目が合った。
彼女の顔が、パァッと輝く。
「見つけました!」
彼女は迷いなく、カツカツとヒールを鳴らしてこちらへ歩いてくる。
おい待て。
なんでバレてるんだ。顔は隠してたはずだろ。
まさか、気配だけで俺を? だとしたらSランクの索敵能力は化け物か?
「あの時の背中、忘れません! 貴方ですよね、私の命の恩人!」
彼女は俺の机にドンッ! と何かを叩きつけた。
それは、くしゃくしゃになった一枚の紙切れだった。
『Fランクダンジョン清掃業務 一〇月度シフト表 担当:相馬透(〇〇大学)』
「これ、現場に落ちてましたよ」
「……あ」
俺は思わず声を漏らした。
昨日、タイムカードを押そうと焦ってポケットを探った時に落としたのか。
Sランクの能力とか関係ない。ただの個人情報流出だった。
教室中の視線が――いや、殺気が、俺一人に集中する。
「……人違いじゃないですか?」
「証拠があるのに往生際が悪いです! それに、その死んだ魚のような目、間違いありません!」
失礼だなこの女。
「お願いします! 貴方のその『お掃除』のテクニック、私に教えてください!!」
……あ、これ。
俺の平穏、終わったかもしれない。
◇
**【SNSの反応】**
@Rin_LOVE
【速報】如月凛ちゃん、〇〇大学に出現!!
@ダンジョン探索速報
凛ちゃんが誰かを探してるらしい。もしかして例のインベーダーか?
大学にいるってことは学生?
@匿名希望
俺、同じ講義室にいるんだけどwww
凛ちゃんが陰キャっぽい男に詰め寄ってるwww
あいつがインベーダーとか嘘だろwww
主人公、早くも特定されました。
原因は「シフト表を落としたから」という、なんとも締まらない理由です。
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