第19話 世界の危機? それより単位の危機で
凛「師匠! テスト勉強手伝いに来ました!」
透「部外者が勝手に大学に入るな」
最強の敵、「期末テスト」現る。
7月。
それは学生にとって、ダンジョンの深層よりも過酷な季節。
すなわち、前期・期末試験期間である。
「……終わった」
俺は大学の掲示板の前で膝をついた。
試験日程が発表されたのだ。
よりによって、俺がバイト(掃除)と政府の依頼(掃除)にかまけてサボっていた講義の試験が、三日連続で詰め込まれている。
「やばい。このままじゃ留年だ」
S級ダンジョンの結界は溶かせても、教授の情けを溶かすことはできない。
俺が頭を抱えていると、横から声をかけられた。
「あら師匠、顔色が悪いですよ?」
鈴の鳴るような声。
振り返ると、そこには場違いなほど優雅な、白いワンピース姿の如月凛が立っていた。
清楚だが、身につけているバッグや靴は一目で分かる超高級ブランド品。俺の年収より高そうだ。
周囲のむさ苦しい男子学生たちが、「うわ、本物の如月凛だ……」「なんでウチの薄汚い学食に女神がいるんだ?」とどよめいている。
「凛か……。なんでここにいるんだ。お前の大学はあっちだろ」
「失礼ですね。師匠が単位の危機だと聞いて、駆けつけたうんですよ!」
凛は胸を張った。
「私の大学の試験は、すべて満点で終わらせてきました。なので今日から、私が師匠の家庭教師です!」
「……余計なお世話だが、背に腹は代えられないか」
俺にとっては世界崩壊より、奨学金停止の方が大問題だ。
俺たちは図書館へと移動した。
◇
大学図書館の自習スペース。
俺たちは教科書を広げていた。
「いいですか師匠。この大学の……一般教養のレベルなら簡単です」
「お前、今ナチュラルに『この程度の大学なら』って顔したな」
「ここに出る『現代ダンジョン学』の基礎ですが……」
凛の教え方は上手いのだが、俺の脳が拒否反応を示している。
文字の羅列を見ると、どうしても「散らかったゴミ」に見えてしまうのだ。
(……待てよ?)
俺は教科書を睨みつけた。
この膨大な知識。要するに、頭の中が散らかっているから覚えられないんじゃないか?
必要な情報だけを「整頓」して、不要なノイズを「廃棄」すればいい。
俺はリュックの中に隠していたクロ(元魔王・フィギュアサイズ)に小声で話しかけた。
「おいクロ、この教科書の内容、全部スキャンできるか?」
『フン、我ヲ誰ダと思ッテイル。深淵ノ叡智ヲ持ツ我ニかかれバ、人間ノ浅イ知識ナド……』
「よし。じゃあ俺の脳内に直接、要点だけ転送しろ」
『ハァ? 我ハUSBメモリデハナイゾ!』
文句を言いながらも、クロは俺の指先に触れた。
瞬間、脳内に情報が流れ込んでくる。
【データ整理を開始します】
【不要な接続詞、冗長な表現を削除】
【重要単語のみを圧縮・保存】
俺の頭の中で、知識が「zipファイル」のように圧縮されていく感覚。
散らかった部屋が、一瞬で片付いていく快感に似ている。
「……いける!」
俺はペンを走らせた。
過去問の解答欄が、猛烈な勢いで埋まっていく。
「す、すごいです師匠! ペンから煙が出るほどのスピード……!」
「ああ、全部頭に入った。これで勝てる!」
俺は勝利を確信した。
もはや「ダンジョン学」など敵ではない。
――しかし、翌日のテスト本番。
俺は重大なミスに気づくことになる。
問:『ダンジョンの発生原因について述べよ』
俺の解答:
『次元の裂け目に溜まった魔力的汚泥が原因。対策は、こまめな換気と強力洗剤による洗浄に限る。なお、発生した魔物は害虫の一種であり、バルサンが有効』
結果。
俺の答案用紙は、教授によって真っ赤に添削されて返ってきた。
『評価:D(不可)』
『コメント:君の思想は危険すぎる。あとバルサンは魔法ではない』
「……なんでだ」
俺は食堂でうなだれた。
隣で凛が慰めてくれる。
「ど、ドンマイです師匠! 理論は完璧でしたよ! ただ、アカデミズムが師匠に追いついていないだけです!」
「慰めになってないぞ」
足元のリュックの中で、クロがケケケと笑っていた。
『バカメ。貴様ノ「掃除」ノ基準デ解答スレバ、ソウナルニ決マッテイル。人間トハ、真実ヲ受ケ入レラレヌ生キ物ダカラナ』
クロの言葉が、妙に引っかかった。
真実を受け入れられない。
俺のやっていることが「正解」だとしても、それが世界にとって「正しい」とは限らない、ということか?
まあいい。
とりあえず、追試の勉強だ。
俺は重い足取りで、再び図書館へと向かった。
◇
**【SNSの反応】**
@大学掲示板
インベーダー、ダンジョン学のテストで0点だったらしいぞwww
マジかよwww
あと試験中、全身ハイブランドの美少女がずっと彼を監視してたらしい。
如月凛じゃね?
他校のお嬢様が、なんでウチの学食にいるんだよ……。
@弟子入り希望ちゃん(凛)
違います! 教授が古いだけです!
師匠の理論こそが、次世代のスタンダードになるのです!
(※なりません)
Q:テストの結果は?
A:世界を救えても、単位は救えませんでした。
日常回でした。
凛は他校の学生ですが、師匠のためなら不法侵入(?)も辞さないようです。
クロの言う通り、透の常識は、アカデミズム(人間社会)では異端そのものです。
次回、夏休み突入。
海だ! 水着だ! ……そして、深海からの脅威だ!
(※もちろん、主人公はバイトで行きます)
面白いと思ったら、ブックマークと【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!




