第18話 魔界からの刺客? セールスならお断りです
暗殺者「元・魔王よ。貴様はもう用済みだ」
透「ウチ、新聞は取ってるんで」
言葉が通じません。
その夜、アパートの空気が凍りついた。
『……ヒッ!?』
部屋の隅で掃除機に乗って遊んでいたクロが、突然ガタガタと震え出したのだ。
顔面蒼白(もともと白いが)になり、俺の足元に隠れようとする。
「どうした、クロ。またゴキブリでも出たか?」
『ち、違ウ……来タ……奴ガ来タ……! 現魔王軍ノ処刑人ガ……!』
「現魔王軍?」
『ソウダ……我ハ力ヲ失ッタ「先代」ノ王。今ノ魔界ヲ支配スル連中ニトッテハ、我ナドただの魔力電池……回収サレテ、永遠ニ搾取サレルノダ……!』
クロが怯えるのと同時に、ベランダの窓ガラスが音もなく振動した。
スゥッ……と黒い霧が染み込んでくる。
霧は部屋の中央で人の形を成した。
漆黒のマント。骸骨を模した仮面。手には禍々しい大鎌。
ハロウィンのコスプレにしては気合が入りすぎている。
「……見つけたぞ、落ちぶれた先代よ」
仮面の奥から、地を這うような低い声が響いた。
「そして、貴様か。我らが『コア』を不当に所持する人間は」
男は大鎌の刃を俺に向けた。
「我が名はゼルガディス。現魔王軍直属の暗殺部隊長だ。その『粗大ゴミ(元魔王)』を回収し、貴様を排除しに来た」
なるほど。
俺は手に持っていた漫画雑誌を閉じた。
「あのー」
「命乞いなど無駄だ。貴様の罪は万死に値す――」
「間に合ってます」
「……は?」
俺は玄関のドアを指差した。
「宗教の勧誘も、新聞の契約も、怪しい壺の販売も、全部お断りしてるんで。大体なんですか、その格好。不審者として通報しますよ」
「……き、貴様ァ!!」
ゼルガディスと名乗った男が激昂する。
「我を! 魔界最強の処刑人を! セールスマン扱いするか!!」
「いや、アポなし訪問は迷惑なんで」
「黙れ! 死んで罪を償え! 『影縫いの呪縛』!」
男が鎌を振るうと、部屋の影が一斉に動き出した。
影が鋭い棘となって、俺の足元に迫る。
俺は眉をひそめた。
部屋が汚れる。
せっかくクロに掃除させたばかりなのに、壁や床に黒いシミ(影)が広がっていく。
「……カビか?」
湿気の多い季節だ。黒カビが発生したのかもしれない。
カビは根が深い。表面だけ拭いても意味がない。
根こそぎ除去する必要がある。
【対象をスキャン中……】
【種別:悪性黒色カビ(闇魔法)】
【推奨処理:強力カビ取り剤による除菌】
俺は溜息をつき、右手をかざした。
「まったく、手入れが面倒なカビだ」
「カビではない! これは深淵の闇……」
「――『防カビ燻煙』」
シュァァァァッ……!
俺の手から、除菌効果のある光の粒子が噴射される。
それは部屋中に広がっていた「影」に触れた瞬間、ジュワッ! と音を立てて白く浄化していった。
「ギャアアアアアッ!? 熱イッ! 身体ガ溶ケルゥゥッ!?」
悲鳴を上げたのは、カビ(影)だけではなかった。
その発生源であるゼルガディスまでもが、白煙を上げて悶え苦しみ始めたのだ。
「バ、バカな……! 我が闇の衣が、一瞬で剥がれ落ちていく……!? これが『白き悪魔』の力かァァァッ!!」
男は断末魔を残し、光の中に溶けて消えた。
後には、チリ一つ残らなかった。
「ふぅ。綺麗になった」
俺は満足気に部屋を見渡した。
除菌完了。これで空気も綺麗になった気がする。
「……おいクロ、大丈夫か? もうカビは取れたぞ」
俺が足元のクロに声をかけると、彼女はガクガクと震えながら俺を見上げていた。
『カ、カビ……? 今ノハ、現魔王軍デモ五指ニ入ル実力者……ソレヲ、単ナル汚レトシテ処理シタト言ウノカ……?』
「ん? なんか言ったか?」
『イ、イエ! サスガご主人様! 一生ツイテ行キマスワン!』
クロが媚びへつらうように擦り寄ってくる。
先代魔王としてのプライドは、もう完全にへし折れたらしい。
俺は再び漫画雑誌を開いた。
平和な夜だ。
明日もバイト(掃除)がある。早く寝よう。
◇
**【魔王軍・対策会議】**
『報告。暗殺部隊長ゼルガディス、反応消失』
『……なんだと?』
『人間界に降臨してわずか三分で消滅しました』
『ありえん……奴は誰にやられた? 勇者か? 聖騎士か?』
『いえ。目撃情報によると……アパートの住人に「カビキラー」のようなものを撒かれて死んだと』
『……は?』
『奴の名はインベーダー。我々にとっての、最悪の天敵です』
Q:魔界最強の暗殺者が来ましたが?
A:カビ取りスプレーで除菌しました。
主人公にとっては「しつこいカビ」。
魔界にとっては「触れたら終わりの白い悪魔」。
認識のズレが、決定的な悲劇(喜劇)を生んでいます。
次回、そろそろ大学の期末テストです。
世界を救うより単位が危ない!
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