第17話 年収100億? 英語が喋れないのでパスで
米国エージェント「Come on! 報酬は1億ドルだ!」
透「No thank you. I like Japanese Rice.」
黒船が来航しましたが、鎖国(塩対応)します。
家に転がり込んだ生意気な居候に留守番を任せ、俺は大学へ向かった。
最近は構内を歩くだけで視線が集まる。
『インベーダー』としての正体は隠しているつもりだが、凛や剣崎が付きまとってくるせいで、完全に有名人扱いだ。
講義室に入ろうとした、その時だった。
「Hey! ミスター・ソウマ!」
やけに発音の良い日本語が飛んできた。
廊下の向こうから、金髪碧眼の巨漢が歩いてくる。
身長は二メートル近い。星条旗を模した派手なジャケットを着ている。
その背後には、SPらしき黒服の集団。
明らかにカタギではない。
「誰だ?」
「おや、ご存知ない? 彼はアメリカ合衆国No.1探索者、ジャック・バーンズ氏ですよ!」
横から割り込んできた通訳の男が、誇らしげに紹介した。
ジャック・バーンズ。
世界ランキング3位。パワーと耐久力に特化した『重戦車』であり、全米のヒーローだ。
「Nice to meet you! 君が噂のインベーダーだね!」
ジャックは俺の手を握り潰さんばかりの力でシェイクした。痛い。
周囲の学生たちが「うわ、ジャックだ!」「本物のアメリカンヒーローじゃん!」と色めき立つ。
「何の用ですか。俺、これから講義なんですけど」
「HAHAHA! 細かいことは気にするな! 今日は君にBIGな提案を持ってきたんだ!」
ジャックは懐から一枚の契約書を取り出し、俺の目の前に広げた。
「単刀直入に言おう。我が国に来ないか? 君のその『掃除能力』、高く評価している。日本政府なんかの提示額とは桁が違うぞ?」
通訳がすかさず補足する。
「提示年俸は一億ドル。日本円にして約一〇〇億円です。さらにニューヨークの一等地にペントハウスを用意し、専属のシェフと執事もお付けします」
一〇〇億。
教室中が静まり返った。
学生たちが息を呑む音が聞こえる。
生涯賃金を一年で稼げる金額だ。断る理由がない。
だが。
「断る」
「……What?」
ジャックの笑顔が凍りついた。
通訳も「えっ、聞き間違いでしょうか?」と耳を疑っている。
「一〇〇億ですよ? 一生遊んで暮らせる金額ですよ?」
「金は魅力的ですけどね」
俺は肩をすくめた。
「俺、英語喋れないんで」
「は?」
「それに、ニューヨークってゴミの分別ルールが違うでしょ? 覚えるのが面倒くさいんですよ。今の行政区の『火曜・金曜は燃えるゴミ』っていうリズムが気に入ってるんで」
俺の返答に、ジャックが口をポカンと開けた。
S級ダンジョンの結界を溶かす男が、ゴミ出しの曜日を理由に一〇〇億円を蹴ったのだ。
理解できるはずがない。
「ク、クレイジー……! 君は正気か!?」
「至って正気です。あと、アパートの更新料払ったばかりなんで、引っ越すと損するんですよね」
俺はジャックの手から契約書を抜き取ると、丁寧に折りたたんで胸ポケットに返した。
「お気持ちだけ受け取っておきます。あと、校内は土足禁止じゃないですけど、そのブーツ、泥がついてますよ。掃除の邪魔なんで気をつけてください」
それだけ言い残し、俺は講義室へと入っていった。
残された全米No.1ヒーローは、自分のブーツを見下ろし、顔を真っ赤にして震えていた。
「……My God! なんて奴だ! あいつには『欲』というものがないのか!?」
いや、ある。
ただ、俺の欲望の優先順位は「平穏な日常 > 莫大な富」というだけだ。
それに、あんな派手な国に行ったら、間違いなく毎日「大掃除」させられるに決まっている。
時給が良くても、ブラック企業はお断りだ。
◇
**【SNSの反応】**
@大学内の中継
速報。インベーダー氏、アメリカからのオファーを一蹴。
理由は「英語が喋れないから」。
あと「ゴミ出しの曜日が変わるのが嫌だから」。
@海外の反応
Oh...Japanese "MOTTAINAI" spirits?
いや、ただの変人だろ。
1億ドルだぞ!? 俺なら裸で泳いで行くね!
@弟子入り希望ちゃん(凛)
さすが師匠! 日本を愛しているのですね!
私たちを見捨てないその男気、惚れ直しました!
(※誰もそんなこと言ってません)
Q:100億円を断った理由は?
A:環境の変化がストレスだからです。
(あと、クロ(魔王)のパスポートが取れないから)
海外からのスカウトも失敗。
次回、今度は「向こう側の世界」からの刺客が現れます。
ペットのクロが、何やら怯えているようですが……?
面白いと思ったら、ブックマークと【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!




