第16話 漂白したら美少女になったけど、家賃払えます?
魔王「我が名は深淵の……」
透「あ、住所不定無職ですね。出て行ってください」
ゴミ(魔王)が、居候になろうとしています。
翌朝。
まぶしい朝日で目を覚ました俺は、あくびをしながら洗面所へと向かった。
「さて、昨日の汚れ、落ちてるといいけど」
昨晩、強力漂白剤につけ置きしておいた「黒い立方体」。
あれが綺麗になっていれば、燃えないゴミとして出せるはずだ。
俺は洗面所の電気をつけた。
「……は?」
思考が停止した。
洗面器の中に、立方体はなかった。
代わりに、バスタオルを頭から被った、手のひらサイズの「何か」が震えていた。
透き通るような白い肌。
夜闇を固めたような黒い髪。
そして、生意気そうな真紅の瞳を持つ、小さな少女だった。
『……貴様、ヨクモヤッテクレタナ』
少女――というか、フィギュアくらいの大きさの幼女が、洗面器の縁に立って俺を睨みつけている。
その体からは、プンと塩素系漂白剤の清潔な香りがした。
「誰だお前。不法侵入か?」
『誰ダト? 我ハ深淵ヲ統ベル王、ノ……』
彼女は言いかけて、自分の体を見下ろした。
『……ノ成レノ果テダ! 貴様ガ漂白剤ナドトイウ劇薬ニ漬ケルカラ、我ノ力(魔力)ガ全部溶ケ出シテ、コンナ姿ニナッテシマッタデハナイカ!』
「ああ、昨日のゴミか」
俺は納得した。
どうやらあの汚れ(ヘドロ)が本体だったらしく、それを洗い落とした結果、中身の精霊(?)だけが残ったようだ。
まるで着ぐるみを洗濯して縮んだみたいだな。
『ゴミト言ウナ! 我ハダンジョン・コア! 無限ノ魔力ヲ生ミ出ス永久機関ナノダゾ!』
「へえ、永久機関」
俺は興味なさげに歯ブラシを手に取る。
「で? なんか役に立つのか?」
『フン、我ガ本気ヲ出セバ、世界ヲ滅ボス魔獣ヲ召喚スルコトナド造作モ……アレ?』
幼女が手をかざすが、ポスッ、と小さな煙が出るだけ。
『……力ガ入ラヌ。漂白サレ過ギタカ』
「役立たずじゃん」
俺は洗面器をひっくり返そうとした。
『待テ待テ待テ! 流スナ! 下水ニ流スナ!』
「じゃあ出て行け。ウチはペット禁止だ」
「ペットデハナイ! 同居人ダ!」
幼女が俺のパジャマにしがみついてくる。
必死だ。威厳のかけらもない。
『頼ム、置イテクレ! 今外ニ出レバ、我ヲ狙ウ人間に捕マッテ実験材料ニサレル! ココシカ安全ナ場所ハナイノダ!』
「知ったことか。俺は貧乏学生なんだ。無職を養う余裕はない」
俺が冷たく突き放すと、彼女は涙目で叫んだ。
『カ、家事! 家事ナラ手伝ウ! 我ハ魔力デ物体ヲ動カセル! 掃除機トカ動カセルゾ!』
「……ルンバ代わりにはなるか」
俺は少し考えた。
最近、バイトやギルドの呼び出しで忙しくて、部屋の掃除が行き届いていない。
自動で動く掃除用具があれば、少しは楽になるかもしれない。
「分かった。置いてやる」
『オオ、慈悲深イ……!』
「ただし、条件がある」
俺は幼女の首根っこを摘み上げた。
「今日からお前の名前は『クロ』だ。仕事は部屋の掃除とゴミ出し。サボったら即保健所に連れて行く。いいな?」
『……ク、クロ? 我ハ高貴ナル魔王……』
「不満か?」
『イエ、クロデ行キマス。ワン』
こうして、俺の六畳一間に新しい同居人が増えた。
元・魔王の心臓にして、現・高性能ルンバのクロだ。
俺はクロを床に置くと、大学への準備を始めた。
背後で、クロがブツブツと何か呟いているのが聞こえる。
『……覚エテオレ人トノ子ヨ。イツカ力ヲ取リ戻シタ暁ニハ、必ズヤ貴様ヲ……』
「なんか言ったか?」
『イエ! 部屋ノ隅ノホコリガ気ニナルナァト思イマシテ!』
まあ、害はなさそうだ。
俺はそう判断して部屋を出た。
だが、俺はまだ知らなかった。
このクロが、なぜ世界中から狙われているのか。
そして「インベーダー(侵略者)」という言葉の、本当の意味を知る存在の一角だということを。
◇
**【SNSのトレンド】**
@インベーダー目撃情報
最近、インベーダーさんのアパートから、ブツブツ独り言が聞こえるらしい。
「世界を……」とか「我は……」とか。
中二病?
@弟子入り希望ちゃん(凛)
師匠に限ってそんな……!
きっと、世界の真理について思索を巡らせているのです!
さすが師匠、哲学的です!
新しい家族が増えました。
名前:クロ
種族:ダンジョン・コア
特技:掃除機に乗ること
シリアスな設定を持つキャラですが、当分はこき使われる運命です。
次回、大学に海外からの刺客(?)が現れます。
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