第15話 世界を滅ぼす鍵? 汚いので洗濯機で洗っときます
政府「ダンジョンの『核』が見当たらない! どこへ消えた!?」
透「作業着と一緒に洗っちゃったけど、大丈夫かな」
とんでもないものを拾って帰りました。
S級ダンジョンの「大掃除」を終えた俺は、地上に戻って撤収作業を行っていた。
広場には自衛隊や政府関係者が溢れ返り、まるでお祭り騒ぎだ。
「相馬様! 素晴らしい戦果でした!」
「握手してください!」
興奮した様子で駆け寄ってくる人々を適当にあしらいながら、俺はこっそりとため息をつく。
疲れた。
これだけの規模の掃除だ、流石に肩が凝る。
早く帰って風呂に入りたい。
(……ん? なんだこれ)
作業着のポケットに手を入れると、指先に硬い感触があった。
取り出してみると、それは手のひらサイズの「黒い立方体」だった。
表面には血管のような赤いラインが走り、ドクン、ドクンと不気味に脈打っている。
「いつの間に……?」
さっき空中で結界を拭き取った時に、紛れ込んだのだろうか。
俺はそれを光に透かして見てみる。
【対象をスキャン中……】
【名称:魔界の鍵】
【危険度:測定不能(世界崩壊クラス)】
【判定:産業廃棄物】
うわ、なんかヤバそうなのが出た。
産業廃棄物。つまり、処理に金がかかる一番面倒なゴミだ。
「……見なかったことにしよう」
俺はそっとポケットに戻した。
こんなのを行政に渡したら、「どこで拾った」「書類を書け」「保管料を払え」と面倒な手続きをさせられるに決まっている。
後で燃えないゴミの日に、こっそり捨てればいいだろう。
「相馬君!」
そこへ、血相を変えた氷室室長が走ってきた。
いつもの冷静な彼女らしくない、焦った表情だ。
「お疲れ様。……ところで、何か『変わったもの』を見なかった?」
「変わったもの?」
「ええ。ダンジョンの『核』よ。ゲートを維持していたエネルギー源が見当たらないの。あれがないと、ゲートが自然消滅してしまうわ」
「ああ、そうなんですか」
俺はポケットの上から、黒い立方体をぎゅっと握った。
……これのことか?
だが、今さら「持ってました」なんて言えば、ネコババしようとしたと思われるかもしれない。
それに、あんな汚いゴミを渡したら失礼だ。
「いやぁ、見てませんね。洗剤で一緒に溶けちゃったんじゃないですか?」
「そ、そんな……。貴重なサンプルが……」
「それより室長、報酬の振込、早めにお願いしますね」
俺は話を強引に切り上げると、送迎車に乗り込んだ。
去り際、背後でゲートがシュンと音を立てて消滅するのが見えた。
どうやら、このゴミ(コア)を持ち出したせいでダンジョン自体が消えてしまったらしい。
まあ、掃除の手間が省けてよかった。
◇
帰宅後。
俺はアパートの洗面所に立っていた。
「汚ねぇな、これ」
ポケットから出した「黒い立方体」は、ヘドロのような粘液でベトベトしていた。
素手で触るのも躊躇われる。
俺は蛇口をひねり、ハンドソープをつけてゴシゴシと洗い始めた。
『ギ……ギギ……ッ!?』
ん?
なんか今、悲鳴みたいな音が聞こえたような。
気のせいか。
俺は構わずタワシで擦る。
『ヤ、ヤメロ……! 貴様、我ヲ洗ウ気カ……!?』
……喋った。
俺は手を止めて、泡だらけになった立方体を見つめる。
「おい、今喋ったか?」
『フハハ! イカにも! 我ハ深淵ノ王、混沌ヲ統べるモノ……プハッ!? 泡ガ、目ニ沁ミル!』
どうやら、相当高機能なAI搭載スピーカーらしい。
最近の落とし物はハイテクだな。
「うるさい。今洗ってるんだから静かにしろ」
『貴様、我ニ向カッテ命令ヲ……グボァッ! 水ヲカケルナ! 我ハ水ニ弱イノダ!』
「知るか。綺麗になるまで漬け置きだ」
俺は洗面器に水を張り、漂白剤をドボドボと注いで、その中に立方体を放り込んだ。
『ギャアアアアアッ! 沁ミルゥゥゥ! 貴様、覚エテオレ……ボコボコボコ……』
沈んでいった。
しばらくすれば大人しくなるだろう。
俺は満足して、夕飯の準備に取り掛かった。
まさかその「ゴミ」が、世界中の裏組織が狙う『魔王の心臓』だとは、知る由もなく。
◇
**【裏社会のダークウェブ】**
:【急募】新宿ダンジョンの「コア」
:報酬:100億円
:政府が確保に失敗したらしい。
:誰かが持ち去った可能性が高い。
:見つけ次第、奪い取れ。所持者は殺しても構わん。
Q:魔王の心臓を手に入れました。どうすればいいですか?
A:まずはハイターで消毒しましょう。
主人公、とんでもないものを拾ってしまいました。
次回、漂白された魔王(?)との奇妙な同居生活、あるいは世界中の暗殺者に狙われる日常が始まります。
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