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第1話 その仕事、時給1100円につき

時給1100円で淡々と作業しているだけなのに、なぜか世界最強扱いされてしまう大学生の話です。

スカッと気軽に読める現代ダンジョンものを目指します。


 冒険とは、本来もっとロマンチックなものだったはずだ。

 未知なる秘境に足を踏み入れ、強大な魔獣と剣を交え、富と名声を手にする。かつての物語の中で語られた英雄たちは、誰もが目を輝かせてそう語った。

 だが、現実は違う。

 少なくとも、二〇二五年の東京においては。

「――はい、燃えるゴミ」

 俺は視界の端に映った赤い警告表示アラートに向かって、淡々と人差し指を向けた。

 眼前に迫っていたのは、全長二メートルほどのオークだ。本来ならFランクの探索者が遭遇すれば、死を覚悟して逃げ惑うべき相手だろう。

 けれど、俺の目にはそれがただの『処理すべきオブジェクト』にしか見えていない。

【対象をロックしました。種別:可燃物】

廃棄ディスポーザルを実行しますか?】

「実行」

 呟いた瞬間、オークの巨体は断末魔すら上げることなく、シュン、と音を立てて空間から消滅した。

 血飛沫もなければ、肉片も残らない。最初からそこには何もなかったかのように、ただ綺麗な空間が広がっているだけだ。

 後に残ったのは、地面に落ちた小さな魔石が一つだけ。

「……よし、これでノルマ達成まであと三十個か」

 俺は溜息をつきながら、作業着のポケットからスマホを取り出す。

 時刻は一六時五五分。バイトのシフトが終わるまで、あと五分。

 俺の名前は相馬透そうま・とおる。二十歳の大学生だ。

 世間ではダンジョンを攻略する者を「英雄」とか「インベーダー」とか呼んでもてはやしているらしいが、俺には関係ない。

 俺はただ、学費と生活費を稼ぐために、この薄暗い穴倉の掃除をしているだけなのだから。

 時給、一千百円で。

          ◇

「ふあ……帰るか」

 指定されたエリアの『清掃』を終えた俺は、あくびを噛み殺しながら出口へ向かっていた。

 今日の夕飯は何にしようか。スーパーで半額の弁当が残っているといいんだが。そんなことを考えていた、その時だった。

「キャアアアアッ!!」

 甲高い悲鳴が、岩壁に反響して鼓膜を叩いた。

 出口付近の広場だ。

 眉をひそめて顔を上げると、そこには異様な光景が広がっていた。

 銀色の髪を振り乱し、ボロボロになった軽鎧ライトアーマー姿の少女がへたり込んでいる。

 そして彼女の目の前には、通常の個体よりも二回り以上巨大な、どす黒い皮膚を持つオーガが立ちはだかっていた。

(……うわ、変異種イレギュラーかよ)

 俺は舌打ちしたくなった。

 変異種は、稀に発生する強力な個体だ。Fランク指定のこのダンジョンに現れるなんて運営の管理ミスもいいところだが、問題はそこじゃない。

 奴が、出口へ続く唯一の通路を塞いでいることだ。

「はぁ、はぁ……嘘、配信切れてない……?」

 少女――よく見ると、ネットニュースで見たことのある顔だ。確か、Sランク探索者の如月凛きさらぎ・りんとか言ったか。

 彼女の周りには撮影用のドローンカメラが浮遊しており、赤いランプが点滅している。

「逃げ……て……!」

 俺の足音に気づいたのか、彼女が悲痛な声を上げた。

「一般人!? ダメ、来ちゃダメ! コイツは魔法も効かない化け物なの! 早く逃げ――」

「すいません」

 俺は彼女の警告を遮って、スタスタと歩み寄る。

「え?」

「そこ、通りたいんで。どいてもらっていいですか?」

「は……?」

 彼女が呆気にとられた顔をする。

 だが、俺に構っている暇はない。時刻は一六時五九分。あと一分でタイムカードを押さなければ、残業扱いになってしまう。書類を書くのは面倒だ。

 俺は、通路を塞ぐ巨大な肉の壁を見上げた。

 オーガの変異種が、鬱陶しそうにこちらを睨み、太い腕を振り上げる。

「グオオオオオオオオッ!!」

 鼓膜が破れそうな咆哮。

 だが、俺の視界に映っているのは、そんな恐ろしい怪物ではない。

【対象をロックしました。種別:粗大ゴミ】

 ただの、撤去対象だ。

「退勤の邪魔だ」

 俺は無造作に右手をかざした。

「――『廃棄』」

 ドォンッ!!

 何かを殴ったような衝撃音はしなかった。

 ただ、空間が抉り取られたような、不自然な風圧だけが広場を駆け抜けた。

 一瞬前まで雄叫びを上げていたオーガの姿は、跡形もなく消え失せていた。

 文字通り、存在そのものが「なかったこと」になったかのように。

 カラン、と乾いた音を立てて、握り拳ほどの大きさがある高純度の魔石だけが転がる。

「……あ」

 如月凛が、口を半開きにして僵直きょうちょくしていた。

 ドローンカメラが、主を失った空間と、俺を交互に映しているのが分かる。

「よし、間に合った」

 俺はスマホで時刻を確認し、安堵の息を吐いた。一七時ジャスト。完璧だ。

 地面に落ちた魔石を拾うこともしない。変異種のドロップ品なんて報告書が必要になるから、持ち帰るだけ損だ。

「え、あの、今、なにを……?」

 震える声で尋ねてくる彼女に、俺は軽く会釈をした。

「掃除です。お疲れ様でした」

 それだけ言い残し、俺は開通した通路を通って、夕暮れの地上へと歩き出した。

 背後で彼女が何か叫んでいたような気もするが、イヤホンをしてシャットアウトする。

 こうして俺の平和なバイトは終わった。

 その時の俺は、まだ知らなかったのだ。

 今の映像が世界中に生配信されており、数百万人の視聴者が目撃していたことに。

 そして、自分が「清掃員」ではなく、未知の脅威「インベーダー」として認定されてしまったことに。

          ◇

【D-Tube 如月凛チャンネル コメント欄ログ】

:は?

:え、今なにが起きた?

:ボス消えたぞwwwww

:ラグ? 回線落ち?

:いや、あの作業着の男がなんか言ったら消えた

:魔法ですらないぞ今の。詠唱もエフェクトもなかった

:【悲報】Sランク如月凛ちゃん、通りすがりの一般人に命を救われる

:誰あいつwwwww

:動きが完全に業者のそれなんよ

:「掃除です」←かっこよすぎワロタ

:ただの清掃員だろ? ありえん

:解析班! 今の映像スローにして!

:あいつ、あの変異種を「ゴミ」扱いして捨てやがったぞ……

:英雄っていうか、あれじゃまるで

侵略者インベーダーだろ

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