妖精たちの応援
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「クロトさん。卵に念じて。『自分の次に、主人にふさわしい者のところに導いてくれ』とお願いするんだ。ルイカはちゃんと世話をしていたから、卵になつかれてる筈だ」
クロトは強く頷いて、両手に卵を抱えた。目を瞑り、眉間を寄せて念じてみる。念じてみる。念じ続ける。すでに暗くなりだした空からは、空にあるものを全てを叩き落すような雨が降り、隣にいる者の声さえかき消してしまう程の土砂降りになっている。
クロトは四本の茶色い線が残る卵に向って、暫く念じ続けた。それをじりじりと見つめていたシドは、その時間に耐えかね、親指をかぶりと噛んだ。滲み出てきた血を全ての指先につけると、何か印せるものはないかとあたりを見渡す。鞄の中の卵を見つけ、それを地面に置いた。
「シド、何を」
「呼び出すんだよ。ここらへんは田舎だから、精霊の類が近くにいる筈だ。下等階級しか呼べないだろうが、それでも何もしないよりはマシだっ」
「お前のうちは契約師で、召喚師じゃないだろっ。失敗したら大変なことになるっ」
「そんなのは分ってるっっ」
「でも―」
シドは卵の表面に円を描き、その内側や外側に古代文字を素早く書き込んだ。
「我シド=イザナズミは、風の精霊・地の精霊・名もなき姿の降臨を望む。我の魔力の行き届く限りの場所にいる精霊よ、今、我の前に姿を現し、力を貸したまえっ」
その瞬間、透明な魔力の波動がシドを中心に放射し、巨大な円形が街に広がった。その波が限界まで広がると、今度は周りの空気と精霊達の気が反応し、放射していた力の何倍ものエネルギーが、円の内側へ向って迫り出していく。
ロビンは思わず、あたりをきょろきょろと見渡した。
濃縮されていく空間に耐えかねて、円の中心がドーム型に肥大していく。ものの数秒で膨れ上がった波動は、防波堤を襲う津波のように魔方陣に押し寄せ、シドの前まで行き着くと、今度は外側に向って破裂し、空間を引き裂いた。
無音の爆音が辺りに振動し、透明な羽が、残像を残すほどの速さで羽ばたいている。小さな人型をした妖精が十匹ほど、シドの周りに飛んでいた。
ロビンは「おお」と小さく感嘆し、クロトは目と口を開いた。
シドはほっと溜息を吐く。
「雨の日にしては上出来だな」
妖精達はごにょごにょと、高い声で喋りだした。人間の言葉ではない。せわしなく、あちらこちらに飛びまわり、シドの周りをぐるぐる回っている。
「友人がいなくなったんだ」
妖精たちは大げさなほどに目を見開いて息を飲み、口に手を当てた。
「頼む。一緒に探してくれ」
小さく何度も頷く妖精たちに、シドはルイカの特徴を教える。すると一匹の妖精が、シドの髪をつんつんと引っ張った。
「お前は―・・・ああ、ミカゼナで会ったな」
妖精はシドの耳を掴むと、顔をつっこむようにして何かを話し始めた。暫くそれに相槌をうっていたシドは、突然顔を顰めると、妖精の方へと振り向いた。
「本当かっ?」
妖精は頷く。
別の妖精は、ロビンに向って何かを話している。
クロトは聞いた。
「何て言ってたんだ?」
「北の方にある花畑が、ここ数日おかしいらしい。邪悪な気が溜まってて、妖精達が近づけないって」
「北の花畑?」
「ねぇ、ルイカっぽい女の子、見たって言ってるよ」
シドとクロトはロビンに振り向いた。
「金髪の小悪魔に連れて行かれたって」
「小悪魔?本物の?」
「邪悪な気配の奴に背負われて、真っ黒な服の女の子が連れて行かれたって」
「どこにっ?」
ロビンは妖精に振り返る。
「どこに?」
妖精は大きな身振りで顔を覆い、空を指している。
ロビンは二人に向って言った。
「北の、花畑がある公園だって。顔がない、天使がいる」
シドとクロトは目を見開いて、同時に叫んだ。
「あそこだっっ」




