神 ~賽は投げられた~
「水晶は?ほら、よくあるだろう?占い師とかが丸い水晶を覗き込んで、こう―」
クロトは空中をかき回すような仕草をしてみせた。
「何かこういうので、ルイカの様子が見たりとかはできないの?」
「僕達の力じゃ、透視なんて・・・第一、クリスタルがないし―」
「いや、まてっ。あるぞっ。クリスタルの代わりになるものっ」
クロトとロビンはシドに振り向いた。
シドはクロトの耳を指差し、クロトは左耳を触り、叫んだ。
「ああ、そうかっ」
クロトからピアスを受け取ったシドは、球体とはほど遠い、鋭利な形のクリスタスノスを見つめた。
「魔法界でも、好意を持っている者や親しい者に対して、アクセサリーを贈る。その時に自分も同じ石を使って、金属部分に『対』の印を刻む習慣があるんだ。ルイカはクロトさんが親戚であることを喜んでたから、きっと刻まれてる。『対』の印が刻まれたアクセサリー同士は、引かれ合う、同調しあう、という性質があるっ」
シドは自分のネックレスを外した。ルイカの首飾りと似ているが、微妙に大きさと形がちがう石だ。
「ルイカの首飾りは、俺がルイカに贈ったものだ。つまり『対』。クロトさんのピアスと力を合わせれば、もしかしたら・・・」
シドはクリスタルを×字に組んだ。集中し始めたシドに気を使い、ロビンはキッチンの電気を消す。外が雨であることもあいまって、部屋は思ったよりも暗くなった。
数秒ののち、シドの石が小刻みに震えだし、白い蒸気を放ち始めた。ジュウジュウと焼けるような音をしたクリスタスノスの内側から、掠れたルイカの声がした。
《たす・・・けて・・・》
全員が目を見開いた。
その瞬間シドの石は破裂し、破片が床へと飛び散った。シドは手首の辺りまで霜に覆われた片手をかばい、ロビンとクロトは口を開いたまま、暫く動かなくなった。床ではガラスのような破片が、煙を吐きながら溶けている。
呆然としていたロビンが、思わず呟いた。
「早く・・・早く探さないとっ」
***
サンズはぶつぶつと呟きながら、ルイカを見た。血走った目や青ざめた顔が薄気味悪いが、それでもアポロリック家の女は誘拐された時のため訓練を受けるので、ルイカは動揺や不安を見せなかった。しかし背中の方で腕を縛られているうえ、仰向けに寝かされているので、まさに手も足も出ない。
「あの方は私の神なんだっ・・・誰の、誰のものでもない。私のものですならない私のっ――・・・あの方だけなんだ。私を庇護し、理解してくださるのはっ。あの方に見限られれば、私はっ・・・」
ルイカはサンズと同じ金の髪を持つ少年を思い出して、悲しそうに目を細めた。
「誰も・・・?」
「そうだ。あの方はっ・・・あの方は唯一、私を必要として下さるのだっ。私が彼を理解し、仕えているようにっ」
「あなたは――神を理解しているの?」
「ああ・・・そうだ」
サンズは一瞬の間を置いた。
「彼もまた、私を理解して下さっているっ・・・私は一人だった。しかしあの方が、私を拾って下さったのだ。私は孤独では無くなったっ。あの方も私と同じだったのだっ・・・そして、ミスター・ニローもっ・・・」
「同じ・・・?」
ルイカははっと目を見開いた。
そうかっ。この男はビジュブラが見えていたのだっ。
「あなた、魔法使いの―」
「そう。私はウィタジリーだ・・・・・・ミスターを初めて見た時に、私とマスターはすぐに思った。『同じ』だ、と。ミスターは我々と同じに、他人には理解できない力を持っている。そして実際、彼の幻想画を真の意味で理解している者など、私達意外にはいないんだっ。だからあの方は、彼に支援をっ。幻想画を心置きなく描けるように・・・なのにミスターはっ」
ルイカは、クロトと共に夕飯を食べた日を思い出した。
「まさか・・・クロトさんの悪評を流して仕事の邪魔をしたのは、あなたなのっ?」
「彼を守るためだっ。低俗な奴等の目に汚されないように、我々が守ったのだっ。彼の才能をっ。彼自身をっ。彼もまた、私と同じに神に選ばれたのだっ・・・それなのに、それなのに彼はっ―」
《うるさいぞ。何を騒いでいる・・・》
サンズは目を見開き、階段を降りて来る人物を仰いだ。
「マスターッ」
サンズとは違う足音をさせて、もう一人の男が降りて来た。ルイカを見下ろすと、黒い瞳を細める。
《まだ、始末していなかったのか・・・》
ルイカはマスターと呼ばれる男を見上げ、その異様な雰囲気に目を見張った。それはまさしく、人間ではありえない匂いであったが、『神』の匂いと言うには、あまりにも酷いものだった。




