サンズの凶行
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ミスター・ニローの体調が悪い。あの魔女と少年達に関わったことで?・・・しかもあの園には、甥がいなかった。確かに調書には『いる』ことになっているのに、あのシスター達の様子もおかしかった。きっとあの魔女に、何らかの口止めをされたに違いないっ。
サンズは顔を歪めると、呟いた。
「準備が必要だ・・・」
ちょうどその時、ぽつぽつと水滴が天から落ちて来た。石畳の上で弾ける染みのような斑点も、やがて雨音と共に消えた。サンズは濡れるのも気に留めず、目的地に向って歩き出した。
―・・・二日後。
「もう帰るんだ?」
寮の談話室で鉢合せになったロビンは、やはり棒飴をしゃぶっていた。何味なのかは不明だが、水色だ。
「ええ。人間界は雨よ」
「明日午後から授業ないでしょ?そっち行っていい?」
「ええ。だったら、シ―」
ルイカは女子生徒が横切るのを見て、言葉を濁した。
「うん。あいつも誘うよ」
ロビンが言うと、ルイカは微笑んだ。
「じゃあ、明日ね」
「うん。レポート見せてね」
「・・・そっちが目的?」
「ううん。どっちかって言うと、クッキーが目的」
ルイカは苦笑した。
「分かったわ。準備しておく」
「できれば、ケーキもね?」
「分かったわ」
「手作りのだよ?」
「分かってる」
***
・・・翌日。
午前中は晴れていたが、午後は雨で小降りだ。
ルイカは小麦粉がきれているのに気づいて、買物に出る。フリルの付いた黒いカサをさし、濡れた道を歩く。
クロトは一階に降りて、ルイカがいないことに気が付いた。
「あれ?・・・学校かな?」
ふとキッチンで物音がすると、クロトはテーブルにとまっているカラスに気が付いた。追い払おうして近づこうとした足が、一昨日を思い出して止まった。
カラスはじっとクロトを見て、観察している。
クロトは石みたいに固まって、カラスを見返していた。
「あの・・・君は・・・妖精?か何かなの、か、な?」
カラスは沈黙して、答えない。暫くすると羽を広げ、半分開いた窓から、雨の降っている灰色の空へと飛んで行った。
***
ルイカは買物袋を胸に抱き、角を曲がった所でほっと溜息を吐いた。
「なんでこっちに繋がってるのかしら・・・?」
近所で迷子になっていたルイカは、やっと板チョコみたいな扉を発見した所だった。
「すいません。お訪ねしたいことがあるんですが・・・」
ルイカは後ろに振り向き、そしてその瞬間、腹に強烈な痛みを感じて、前かがみになった。傘と買物袋を地面に落とすと、自分の体を誰かが支えた。目を閉じる瞬間に、ポプリのような強くて甘い香りを感じた。
サンズは軽々とルイカを背負うと、何事も無かったかのように傘と買物袋を拾った。憂鬱が降っている田舎道に、ひと気はない。サンズは不敵な笑みを浮べると、ゆっくりと歩き出した。
ルイカの指輪が、キラリと光った。
「ええ~?まだできてないの・・・」
ロビンが酷く残念そうに言うと、困った様子でクロトは返した。
「そうなんだよ。小麦粉がないから、買いに行ってるみたい」
クロトはキッチンに広げられた材料や器具を示した。
「まさか、迷ってるんじゃないだろうな・・・」
「もしかしたらと思ってたけど・・・やっぱりルイカは、方向音痴なんだね?」
「そう」
シドは額縁に入っている絵から、クロトの方に振り向いた。
「あれは異常だね。後天性コズリスに時々みられる、五官の変異に何か原因があるんじゃないかって言われてるけど―・・・」
シドはクロトの左耳に釘付けになった。
クロトは不思議そうな顔をした。
「ああ、これ?」
クロトはピアスに触れた。
「クリスタスノス・・・」
「そう。ルイカがくれたんだよ。似合う?」
何の嫌味もなく邪気の無い顔で聞かれたので、シドは無表情のまま数秒の沈黙を押し通した。
「え?似合わない?」
クロトは屈託なく聞いてくる。
シドは薄らと眉間を寄せた。
「違うよ、クロトさん。シドはヤキモチ焼いてるんだ。自分はめったなことじゃ話もー」
シドが白い花のブーケを横に払うと、ロビンは間一髪でしゃがみこんだ。自分の頭の上にあるブーケを覗き込む。
「それ、トゲが付いてるよ」
「うん、知ってる」
「そうか・・・怒ってるんだね?」
シドは米神辺りに青筋を立てながら、にっこりと笑った。
「いいや?まさか」




