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天の花  作者: 猫姫 花
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お役所とのいざこざ


「じゃあここは、皆ロビンみたいな奴ばっかりなのかっ?」


 ベンチに座りなおしたジュードは答える。


「そう。人間界育ちでも、親が両方魔法使いの子は教えてもらえる。僕達みたいなハーフだと、親が魔法使いだってことを黙ってたりとか、自分でも知らなかったりとかする。ロビンは『先祖がえり』で親の両方が魔法について知らなかったけど、捨てられなかっただけマシさ。ここにいる子供達は全員、魔法使いのハーフとか、ハーフのハーフとか・・・とにかく、全員が魔法使いの親戚だよ」


「全員っ・・・ってことは、シスター達はそのこと知ってるんだよな?わざと魔法使いの子供達を集めてるのかよっ?」


「そうだよ?―だって、人間界で力を暴走させたら大変だろ?みんなパニックになって、近所で魔女狩り始まっちゃうよ。僕にはお兄ちゃんと妹がいるけど、二人は普通の人間だもの。僕のせいでイジメられるの嫌だし・・・ここにはそういう子たちばっかりがいるんだよ。みんなここで、魔法の勉強してるんだ」


 シドは言葉を失いロビンを見ると、ロビンは頷いた。


「僕は人間界で問題おこして、それでウィタジィ用の養護施設に入れられたんだ。そこで魔女の歴史とかアトリムグについてとか教えられて・・・それでだんだんと、レベルが高い施設に移されて行くんだ。僕の場合は人間界で手に負えなくなったから、入園したの遅い割りに、飛び級ばりで特別入学できたの」


「・・・なるほど・・・」 


 ロビンはベンチでも両膝を曲げて座り、口の中で飴玉を転がしながら、歯に当たって高い音が出るのを聞いていた。


「じゃあ、やっぱりあのシスターも、ウィタジリィーだね・・・多分あっちも、僕達の正体に気づいてるんじゃないかな?」


「さっきの若いシスターもウィタジリーか・・・クロトさんがそうだってことも、気づいたかな?」


「どうだろ?僕達の間でも、全部が全部分かるってわけじゃないから・・・ただハーフよりは生粋の方が分かりやすいし、力がないよりも、ある方が分かりやすい、ってこと」


 シドは頷き、数秒後にはたと気づいた。


「待てよっ。エリックはここにいるんだよなっ?」


 立ったままのシドがロビンを見ると、ロビンも「あ」と言ってシドを見上げる。棒飴を口から抜くと、それでシドを指差した。


「じゃあエリックはっ・・・」


 ***


 シスター長が連絡を取ると、近くのホテルで会いましょう、という返事が来た。

 マクドナルド、と名乗った男は、指定した時間に五分程遅れ、スーツを着た二人の男をつれてやって来た。

 1015号室のリビングに入ってきたマクドナルド達の姿を、ルイカ達三人は寝室のドアの隙間から見ていた。メガネをかけた痩せた男と、真面目が服を着たような男は、いかにもお役所勤めという感じだ。テーブルをはさんでクロトの向かいに座ると、ジェラルミンケースを開いて、何やら資料を取り出した。


 クロトは男達が何かを言い出す前に、先に言葉を発した。


「無駄なことは話したくありません。さっそく本題に入りますが、僕の甥、エリックの所在をお聞きしたい」


 マクドナルドは資料をかき集める手を止め、困ったような作り笑顔を浮べた。


「えー・・・そのことについてなのですが、私どもと致しましても、あなたの目的と情報を知りえない限り、お教えすることは・・・」

「僕の情報?」

「あなたは何故、今頃になって―えぇっと・・・」


 マクドナルドは資料に目を移す。


「エリック君。エリック君にお会いになろうとお思いになったのですか?今まで一度も、お会いになったことはありませんよね?」 

「自分の甥に会いにいくのに、何か理由が必要ですか?」


 マクドナルドは瞬く。


「それはごもっとも。しかしエリック君は、一度もあなたの手紙に返事を出していませんね?クリスマス・カードが二枚―通常、親しい仲と呼べるのかどうか・・・」


 クロトは眉間にしわを寄せた。


「・・・あなた方が、どうしてそこまで細かい資料を持っているんです?まるでストーカーだ。甥が何かしたんですか?お役所の方が三人も出てくるような、そんな問題を?」


「いいえっ。甥子さんは大変優秀なお子さんであると、園の方からも報告が来ています。それで最近から導入さた、『養護施設者留学制度』のため、エリック君は完全寮制の学校に入っているんです」


「それは・・・どういうことでしょうか」


「親御さんのいない十二歳から十八歳のお子さんを対象とした、実験的な『留学制度』です。留学と申しましても、実際に外国に行くわけではなく、政府が管理しているインターナショナル・スクールで、様々な国籍のお子さん達と、環境の違う場所で新たな発見をいたしましょう、という試みでして。スクール卒業後は、就職や定職の面でも、大変有利になっています」


 作り笑いを浮べる男を見て、クロトは訝しそうに言った。


「それで・・・それにエリックが選ばれたとして、シスターはどうしてあんなにも慌てていらっしゃったんですか」 


「ああっ、あれはっ・・・先程も言いました通り、これは実験段階にある試みでして、一般公開はされておりませんのです。多国籍者との生活で、子供の精神や学習能力にどのような変化があるのか、を一般の学校に通っている子供と比較し、検証しようとういうものでして。完全寮制の生徒対象の比較ですから、例えご親戚の方でありましても、簡単に連絡をとられては困るのです。子供の自立心に関わりますからね・・・」


 クロトは暫しの間沈黙し、マクドナルドを見つめた。

 なるほど。少し前の自分ならば、だまされたのかもしれないな、と思った。


「それで、エリックと連絡は取れないと・・・?」

「完全に、ではありません。もちろんバースデー・カードやクリスマス・カードのやり取りに、我等が干渉することはありません。しかし連絡を取るにも手紙をやりとりするにも何かと手続きがいりまして・・・緊急時でもないかぎり、ご連絡を希望されて―最低でも二日はお待ちいただかないと・・・」


 クロトは難しい顔のまま沈黙した。

 気まずい雰囲気の中、マクドナルドは何を勘違いしたのか、早口で言う。


「あ、ああっ・・・もちろん、ご親戚の方々のご心労を考え、我々政府と致しましても、それなりのケアをさせていただくつもりです」

「ケア?」


 マクドナルドは上着の内ポケットに手を入れて、紙の束を取り出した。そこから一枚を千切ると、それをテーブルに置く。小切手だ。


「これはほんの―」

「ふざけるなっ」


 クロトはソファから立ち上がり、拳を振るわせた。


「小切手っ?自分の甥を金で売れとでも言うんですかっ?」

「い、いえっ。わたくし共は決してそのような―」


 ***


「中々やるな」

「普段大人しいひとほど、怒ると怖いねぇ」

「でも、見直したわ」

 ドアの前でしゃがんでいたルイカは、それぞれ中腰と背伸びをしている二人の顔を見上げた。

「――そろそろ行きましょうか」


 ***


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