怪しいシスター
八章 施設 編
翌日。
四人は午前中にイビファルを出発し、バスと電車を乗り継ぎした。クロト以外の三人の路銀は、もちろん学校側の経費だ。散歩中の犬に吠えられたり、落ちているビンを踏んで転びそうになったり、銀貨を一枚拾ったり、落ち葉が髪の毛に絡まったりという、小さな大冒険の末に道に迷い、やっとレンガの門柱にある表札を見つけた。
「ここか・・・」
「あらまぁ、ニローさんっ。毎月寄付をなさって下さっている方ですねっ」
若い修道女が笑顔で言うと、クロトも笑顔で返した。
「ええ。突然、ご連絡も入れずにお訪ねしてしてしまってすいません。たまたま近くを通りかかったもので・・・エリックに会わせてもらえますか?」
「あ・・・」
シスターは笑顔のまま、数秒の沈黙をした。
クロトが不思議に思って首を傾げる。
「あ、あの・・・そ、それが最近、エリック君具合が悪くって・・・今も熱が下がらないので、ベッドに入りっぱなしなんですよ」
「大丈夫なんですかっ?」
「え、ええ。ええ。じきに、きっと良くなると思います」
「それなら、お見舞いをさせてもらえませんか」
「えっっ?」
シスターがあまりに驚いた声を出すので、クロトは不審に思って眉間を寄せた。
シスターは焦る。
「あ、ああ、ええ。ええっ。少しお待ちいただけますかっ。私ここに入って間もないものでっ。他の方にお伺いして来ますからっっ」
そう言うと、シスターは逃げるようにして屋内に去った。
やがて風格のある中年のシスターが現われると、クロトと一通りの挨拶を交わした。
「書斎の方へ案内します」
シスターが門柱の死角にいた子供達に気づく。視線に気づいたシドは、シスターに向って人好きのする笑いを向けた。
シスターは眉間を寄せる。
「この子達は?」
三人はクロトのうしろに並び、ロビンが答えた。
「親戚です」
シスターが三人を見て片眉を上げるのに連鎖して、ロビンの片眉も上がる。
「まさか入園の申し込み、と言うわけではありませんわよね?ミスター?」
「まさか」
クロトは苦笑。
「この子達は―」
言葉をにごし、困惑するクロトの横からシドがわざとらしく言った。
「そんなに困った顔すんなよ、ダ~ディ?」
驚いているクロトを見て、ルイカは笑う。
「あら、呼ばれたのが初めてだからって、そんなに驚かなくても」
シスターが訝しんでいるのを見て、反抗期っぽくロビンが言う。
「再婚相手さん、早くエリックって子と遊びたい。早く話しつけてよ」
クロトは戸惑いながら答える。
「あ、ああ・・・それがその、エリックは今日、熱を出して寝込んでいるみたいなんだ」
「まぁ、ミスター。ご再婚を?」
「え、ええ。私は初婚ですが、相手の方は―まぁ。何回か・・・」
「全員お父さんが違うから、本当のキョウダイか、ってよく言われるのよね。昨日もあの意地悪ベティがっ。もうやんなちゃうっ」
ルイカは子供っぽく、そして嫌味っぽく言った。
「で―、ダディ。エリックのお見舞いに花買ってくる?」
クロトの背中ごし、シドは肩から顔を出した。
「あ、ああ。そうした方がいいかな?」
クロトが曖昧に言うと、シスターは言った。
「そのことについて、少しお話があります。どうぞ。書斎へ―」
「ねぇ。じゃあ、そこら辺で遊んでていい?」
ロビンが飴玉をしゃぶりながら言うと、シドも賛成した。
「近くに花屋があったから、そこでお見舞い用に買って来るよ」
「子供だけで外に出るのは危険ですわ。お父様がお話の間、あなた達は園内を見回っていらっしゃいな。ちょうどお昼が終わって子供達もお庭に出てくる時間ですから、遊び相手になってくれると嬉しいわ」
そう言うとシスターは、何か含みのある視線で三人を見てから、クロトを屋内へと案内した。二人のうしろ姿を見送ると、シドはふと言った。
「子供が嫌いなのかな?」
「もしかして、私達の演技が不自然だったのかしら?」
ルイカが首を傾げる。
ロビンは呆っと遠くを見つめながら言う。
「何か変な感じ・・・」
「何が変なの?」
「さぁ・・・でも・・・二人とも感じなかった?」
「「何を?」」
ルイカとシドが同時に聞くと、ロビンは二人の方へと振り返った。
「あのシスター、変な感じじゃなかった?」
「だから、何がだよ」
「ウィッチっぽい」
ルイカとシドは顔を顰めた。
「しかも、僕と同じハーフかクォーターか・・・人間寄りの、ウィタジィ血筋じゃないかな?」
「どうしてそう思うの?」
「何となく・・・」
ロビンはシスターの通った道を見て、目を細めた。
「でも、同じにおいがする・・・あのシスターも、この園も」




