変わり者たちのお茶会
「もしかすると校長にペットが多いのは、子供がいないからかもしれないなぁ・・・だいたいが対話できるか、意思の疎通がとれるタイプなのも、子供のかわりに可愛がりたいからなのかも・・・」
頬杖をついたままのシドが遠い目をすると、ルイカも悲しげな微笑を浮べた。
「そうね・・・」
「だからミスター・ユリユルネスは頭いいのかな?」
クロトは茶を啜りながら、彼らはどうなのだろう?と思った。ロビンは自分がフレーラーだと言い、それは『特殊』なことなのだと言った。そしてルイカも、『特殊』な状況に置かれた肉体であるらしいと、シドがそれらしいことを言っていた。
クロトはふと現実に戻り、顔を上げた。
「ひぃひぃお婆さんっ・・・」
三人がクロトに振り向いた。
クロトは三人を見渡す。
「が―・・・生きてるって、さっき、言った・・・?」
「え?ええ、言ったけど・・・それが何か?」
「今でも同級生だった友人と文通してるって・・・その先生は・・・今でも現役の―?」
「ええ、そうよ?」
「何歳でっ?」
ルイカは数秒沈黙。
「ああ・・・」
ルイカは微笑った。その横と向かいで、ロビンとシドもおかしそうに笑った。
「なるほど。僕もアトリムグに毒されたなぁ・・・」
「普通の人間の世代交代は、生まれた順番だもんな」
クロトは困惑した。
「アトリムグでも寿命は同じで、老化のしかたもさほど変らないんだろう?・・・それともルイカの―その、ひぃひぃお婆さん達は特殊体質なの?」
でも、特殊体質は子供が作れないはずだ、とクロトは思う。
「ええ。そうね」
ルイカは笑った。
「ある意味当ってるわ」
「ある意味・・・?」
「アトリムグには、『ネクタール』という、それを飲むと不老になると言われている飲み物があるの。でも、それは誰にでも作用するわけじゃなくて、『ある一定の条件を満たした』選ばれた者のみに効く薬なの」
「その条件は・・・何?」
「何だと思う?」
クロトは数十秒沈黙し、降参した。
「答えは、生殖能力がない、ということよ」
「それは・・・さっきの特殊体質と同じで、『代わりに授かるもの』、が不老なの?」
「そうね。一般的にはそう言われてるけど・・・ネクタールは誰にでも効くわけじゃないの。それに生殖能力がない、という条件も、先天的に子供が作れない者には効かなくて、もともとあったけれど、年齢や事故で無くなってしまった者にしか効かないらしいわ。だから人間のイメージする魔法使いには、魔女が多いの」
「魔女の・・・イメージ・・・?」
「今は人間界もアトリムグも平和な治安だけれど、昔は争いがあちらこちらで絶えなかったでしょう?そのせいで男は戦いに借り出されるから、生殖能力が自然消滅するまで生きる、ということが、なかなか無かった・・・でも女は、比較的男性よりも長生きしたし、生殖能力は五十歳もすればなくなるわ。ネクタールは少量を継続して、二十年ぐらい飲み続けなければいけないの。寿命が延びたかどうかなんて、童顔の多いウィタジィには表面的に分かりにくいし、薬を飲んでいる間の歳月は、刻々と年をとっていく。五十歳から飲み始めたとしても、作用が出てくるのは七十歳ごろから。本当に不老になったと確信できるのは、人間でも運が避ければ生きていられる、百二十を超えたあたりからね。魔女のイメージが『老婆』なのは、信仰対象が若い女だと困るという当時の文化と、ネクタールによる老体からの不老―、そのためよ」
クロトは暫し、ぽかんと口を開けていた。
「じゃあ、あの校長は・・・百二十歳を越えているの?」
「ええ。とっくに。確か・・・ひぃひぃお婆様の先輩だから、五百歳は越えてるわね」
「ご、五百っ・・・五百っ?」
「老体不老になった魔法使いは、よっぽどのことがなきゃ三百歳ぐらいは生きるよ。五百は中堅ぐらい。最高齢は七百五十歳だし」
うろたえているクロトを見て、ルイカとシドは微笑した。
「大丈夫だよ、クロトさん」
クロトはロビンを見た。
ロビンは椅子に両膝を立て、コンパクトに座っていた。
「僕もはじめは驚いたから。そのうち慣れるって」
「そ・・・そうなの?」
クロトが半信半疑に聞くと、三人は妙に自信有り気に、何度も頷いた。
「慣れるわ」
「慣れるよ」
「クロトさんならね」
「そう、かな・・・?」
「だってクロトさん、変だもん」
「変?」
「変と言うより、変ってるわ」
「奇妙、という方が適切かもよ」
「きみょう?」
三人はクロトの顔を見て頷いた。
「だって・・・ねぇ?」
ルイカが他の二人を見ると、二人は微笑した。
「何?僕のどこがおかしいのっ?」
「だって・・・」
ロビンは言いかけ、可笑しそうに笑った。
シドはそれを見て苦笑し、ロビンの言葉を引き継いで、代弁をする。
クロトはそれを聞いて、破顔した。
「だって、俺達とまともにお茶会してるんだもん」




