相談とキス
「しんせきっっ?」
シドが声を上げると、ルイカは人差し指を唇の前で立てた。ちらりと横を見ると、バーリオンの姿が見えただけで、階下の中庭の様子は分からなかった。あちらからは、昼休みを楽しんでいるはしゃぎ声しか聞こえないのだから、こちらの声も聞こえなかった筈。
「ええ。あなたの遠い親戚ってことにもなるわ」
呆気に取られたシドとロビンは、目を見開いた。
ロビンは棒飴を口から落としそうになり、空中でキャッチする。
「そんな偶然・・・あるものなのか?」
「さぁ・・・あるいは、何かの導きなのかもしれないわね・・・」
「それで・・・」
シドは言いよどんだ。
「リズは・・・」
ルイカは重々しく頷いた。
「何となく、視野に入れていたことよ。まさか事故で亡くなっているとは思わなかったけど・・・」
「それは――本当に事故なのか?」
ルイカはシドを見た。ルイカが困惑していると、事情を知らないロビンが首を傾げた。
「どういうこと?」
「あ・・・」
ルイカとシドはロビンを見た。
「いや・・・駆け落ちして死んだ、って言えば、普通心中かなってさ」
シドがしどろもどろに言い訳をする。
「ああ・・・でも、その・・・誰だっけ?エルリック?は生き残ったんでしょ?」
「エリックよ。今は人間界の養護施設にいるらしいわ。クロトさんが会いに行くから、私もついて行こうかと思って」
「俺も行っていい?」
シドが言うと、ルイカは頷いた。
「ロビン、あなたも一緒に行かない?」
「僕も?いいの?」
「ロビンは人間界に詳しいでしょう?もしエリックが家系の事情を知らない時、フォローして欲しいの。私とシドじゃ、いまいち人間の―しかも一般庶民の感覚はつかみにくいと思うの」
「僕、あんまり普通の暮らしじゃなかったけど―」
ロビンは数秒考える。
「うん。まぁいっか。いいよ。エドウィン見てみたいし」
「エリックよ。あと二日で覚えてね」
「オーケー。エリックね。エリック・・・エリック・・・」
ロビンがぶつぶつと呟いている横で、シドが聞く。
「いつ行くの?」
「クロトさんには、三日後にお願いしたわ。ちょうど授業のない日でしょう?」
「それなら問題ないな」
ロビンが窓から降りると、シドが大きな木箱に足をかけ、ルイカの手を取って降りるのを手伝った。先を歩くロビンの背中をちらりと見て、ルイカの耳元に顔を近づける。
「本当に事故か?」
ルイカはシドを見て、目を合わせた。
「分からない・・・」
ロビンは額縁を跨ぎ、向こう側へと渡った。
「リズ姉さんと旦那さんを車でひき殺した犯人は麻薬中毒者で・・・警察に捕まって、自殺してる・・・」
シドは沈黙し、呟くように言った。
「クィーン・ビーの毒針にひっかかった?」
ルイカは気難しげな顔でかぶりを振った。
「クィーンだとは限らない。アポロリックは、毒草薬学と一族殺しで有名だもの。一体何人が、家のために死んだことか・・・」
「それはどこの貴族も同じだ。何もアポロリックに限られたことじゃない」
「それは大昔の話でしょう?今でも続いてるなんて――・・・」
「どうしたの?」
二人が声の方を見ると、マジックミラーのようになっている絵画の中から、ロビンの上半身だけがひょこりと出ていた。胴体の辺りが波紋を起こしているロビンは、二人の密着度を見て瞬き、少し驚いたような顔をして、目を覆った。
「失礼。邪魔だったね」
「え?」
「続けてどーぞー」
ロビンは向こう側へと再び戻り、向うでも律儀に目を覆い続けた。
「違うのに・・・」
ルイカが困った様子で言うと、シドはにやりと笑って、ルイカの肩に手を置いた。
「続けていいってさ」
シドが冗談半分にキスをしようとすると、ルイカは穏やかにその手をどける。
「行きましょう」
ルイカが歩き出すのを見て、半分は本気だったのか、シドは舌打ちをする。ルイカの背中を見ながら、シドはのろのろと歩いた。向こう側でルイカがロビンに話しかけ、無声映画のように口が動いているのが分かった。ルイカはロビンの方を見て、自分には興味がないかのように見える。シドは額縁に手を当てて溜息を吐くと、顔を俯けた。そのせいでルイカが振り返り、首を傾げたのを見逃したのに気づかない。
「シ・・・」
突然ルイカの顔が出てくると、シドは目を開けたまま硬直した。
「ド・・・」
ルイカはシドのほほに当った唇を離した。
まだ感触の残っている頬に触れたシドを見て、ルイカはいつものように言った。
「早く行きましょう?」
「あ、ああ・・・」
ルイカは顔を引っ込める。ロビンに一言・二言何かを言って歩き出した。
シドは頬を押えたまま沈黙し、その様子を見ていた。何も変らないように見えるルイカの姿に、長いこと付き合わなければ分からない照れ隠しの動揺を見て、口角を上げた。
額縁を跨ぐ。




