『商人の城』の何でも屋通りにて
***
ツクーヨの店を出たルイカは、大通りの方に向って歩いた。来た道を戻り、今度は坂を上がって階段を上る。拓けた道に出れば『火花通り』の筈だったが、ルイカが出た大きな十字路は、何故だか『何でも屋通り』だった。
「なぜ・・・?」
ツクーヨの店は南西の位置にあるので、西側のアイテム地区が側にあった。
ここは旅の装備服や、各地特有の衣服、アクセサリー、掘り出し物が多く見つかる古本屋、気まぐれに金額が変る質屋や、あやしい粉などを売る薬種店、いわくがあるんだか無いんだから分からない物や、芸術的なのかそうじゃないんだかな調度品や、お菓子でできたおかしなお菓子屋や、靴が溢れていて両方揃えるのに苦労する靴屋や、ホウキや自転車を売っている飛行屋など、とにかく好奇心旺盛な子供と、下手な観光客にはスリリングな場所だった。
ルイカはまず冷静になることを努め、ウィタジィでごった返している十字路をぐるりと見渡し、やはり自分が迷っていることを確認した。こんな時のために作っておいた、方位磁石つきの指輪を見るために、自分の手に視線を落とす。
このまま飛び立つこともできなくはないが、市場の上を個人的に飛行するのはマナー違反とされているので、東側の門までは歩くことにした。
ルイカは右手に気を取られ、横から少年が歩いて来る気配に気が付かない。
右目を押えた黒髪の少年は、俯いていてルイカに気が付かない。
二人は接近し、そしてぶつかった。
小さく悲鳴をあげて転んだ二人。
「ごめんなさいっ。前を見てなくて」
「いえ。僕が悪いんです。涙でよく見えなくて・・・」
「え?」
ルイカは少年の顔を覗きこんだ。
「泣いているの?どこか打った?」
「いいえ。コンタクトレンズがずれて・・・」
少年ははたと両手を広げ、地面に視線を落とした。
「あっ。待って。動かないで。落としたみたいだっ」
ルイカは地面を見渡す。少年の上着にゆっくりと手を伸ばすと、驚いた様子の少年に、上着のシワに挟まっていたコンタクトレンズを差し出した。
「あ・・・ありがとう」
「いいえ。ここらは人が多いわ。気をつけて」
黒髪をうしろで結ねた少年は、赤い目を細めた。
少年と別れ反対側に向おうとすると、前方の人並みから声がした。
「ルイカ」
「まぁ、イオ。どうしたの?」
イオは穏やかに笑った。チャーリーのようにいつもはしゃいでいるのとは違って、イオは控えめに笑うタイプだ。
「午前中授業ないから、ぶらぶらしてた。ルイカは?」
「私もよ」
イオはルイカの背後を見た。
「今の子は?」
「知らない子よ。ぶつかってしまったの」
「・・・ふぅん?」
イオはルイカの方へと視線を戻した。
「学校行くなら、一緒にいこ?」
***
少年は少女と別れたあと、赤い目を隠す為に髪を下ろし、顔の半分まで伸びている前髪を指でといた。うしろの方から「ルイカ」と言う声がして、少年は思わず振り返った。
自分の前を横切っていく人影達の間から、先ほどの少女と、その友達らしき人物が見えた。少年は涙で今だぼやけている目を細め、帽子で隠れている少女の顔を見ようとした。
「エリック?」
少年は声のした方に振り返って、近付いてくる友人を見つけた。
「あ、ああ・・・マックス。買物?」
「うん」
マックスは少女と反対側の道を示した。
「あっちでケビン達と待ち合わせしてんだ。お前も来いよ」
「う、うん・・・」
少年は名残惜しそうにうしろを振り向いたが、少女と話しをしている友人らしき人物に気づかれた気がして、顔を逸らした。
バサバサと上空で音がして、少年は自分の方に向って飛行してくるカラスを見つける。
「ヨル」
カラスは少年の肩に三つの足で着地した。
「どこに行ってたんだ?」
ヨルは少年に首元を撫でられ、目を細める。もう一度少年がうしろに振り返る頃には、『ルイカ』という名前かもしれない少女の姿は、人込みにまぎれて消えていた。
「まさか、ね・・・」
「ん?何か言ったか?」
「ううん。なんでもない」
「独り言は年食ってからにしろよ」
「空耳だろ」
「メガネどうしたんだ?」
「近くの店に注文してたから、取りに行く途中なんだ」
「ああ・・・そう言えば、上級生に壊されたって言ってたな・・・お前さ、メガネかける以前に前髪切れよ。目ぇ悪いのの半分は、絶対そのせいだって」
少年は複雑そうに笑った。
「考えておくよ」




