おだやかな朝
翌日。
階段を降りて来る足音。
クロトはカップをテーブルに置いた。
降りて来たルイカは、黒のシャツに黒い半ズボンを穿いていた。
「やぁ、おはよう・・・」
ルイカは目を細めた。窓から入る明るい光でクロトの顔は逆光になっていたが、それでも穏やかな顔だというのは分かる。
「おはよう、クロトさん・・・」
ルイカは食器棚からカップを取り出すと、クロトがセットしたコーヒーメーカーを見つけ、中身を注いだ。
静かにクロトの向かい側に座ると、角砂糖を一つ入れ、その側に置いてあったミニミルクの蓋を剥がし、二つ分入れた。
「今日も学校?」
「ええ。午後からだけど、午前中は用事を済ませようと思って」
二人はコーヒーを飲み、暫くの間沈黙していた。
突然、クロトが話しだす。
「エリックに・・・会いに行こうかと思う」
ルイカと視線が合う。
「会って、何でもいいから・・・ちゃんと、話してみようと思う」
「そう・・・」
クロトはマグカップを両手で包んだ。
「よければ君も・・・一緒に行かないか?」
ルイカは意外そうな顔をした。
「いいの?」
「ああ。エリックがどこまで知っているのかは分からない。けれどエリックは、紛れもなく僕達の甥だ。どういう形であれ、君もお姉さんが産んだ子供を、見てみたいだろう?」
ルイカは少し考えて、ゆっくりと頷いた。
「そうね・・・会ってみたいわ」
「いつなら空いてる?」
ルイカは空中を見上げる。
「三日後なら。その日なら、一日空いているわ」
「そうか。それならその日にしよう」
「シドに・・・シドとロビンに相談してもいい?シドも一応、遠い親戚にあたるし」
「構わないよ」
「ええ・・・ありがとう」
ルイカは立ち上がると、ふと微笑んだ。
「行ってきます」
***
ルイカは髪をまとめ、コサージュの付いたキャスケットをかぶった。周りには様々な格好のウィタジィが入り乱れ、東西南北を問わない訛りが飛び交っている。
DRK魔法学校から数キロほど離れた『ショブガリ』は、その全体がショッピング・モールのような町で、別名『商人の城』と呼ばれている。山一つに覆いかぶさったような造りの町は、森の中に聳え立つ、要塞つきの城のように見えるからだ。
ルイカは活気あるウィタジィの間を縫うようにして、緩やかな下り坂を進んだ。鞄が腰の辺りで小さくバウンドし、黒いブーツがコツコツと鳴っている。
町の南にある、通称『火花通り』は、武器屋や装備屋、鍛冶屋、アクセサリーなんかの加工屋が立ち並んだ場所だ。大きな通りを横切り、ルイカは石の階段を降りる。坂道と階段を何回か繰り返しながら薄暗い道を下って行くと、辺りは先ほどの喧騒が嘘のように静かになっていく。
ガラス入りの赤い木枠ドアの前でルイカは立ち止まると、『フロース・アクセサリー製造加工店』のドアを開いた。骸骨型のベルがカタカタと鳴る。こじんまりとした店内の両壁は棚になっていて、見本の商品が飾られている。ホノカの親戚が営んでいるこの店は、破損したアクセサリーの修理や改造、オーダーメイドができる専門店だ。
「あ~ルイカちゃ~ん。久しぶり~」
間延びした口調の店主は、入り口の正面、カウンターの向こう側にいた。ホノカと違って生粋の小人族の彼は、クグイとツノグのように幼子の体をしていているが、顔の作りは成人しているし、顎には焦げ茶色のヒゲが生えている。
「どうも。ツクーヨさん。首の調子はどうですか?」
「うん。おかげさまでいい感じ~。文句言ったら、背の低いクライアントに代わったよ」「それは良かったですね」
ルイカは鞄から小箱を取り出すと、その引き出しから小さなものを取り出した。
ツクーヨがそれを覗き込む。
「ほ~・・・なかなか珍しい石だね~」
「これを加工して欲しいんです」
「いいよ~。どんな風に?」
「何となくなんですけど、デザイン画を描いてきたんです」
ルイカは折り畳んだ紙を広げると、それをカウンターの上に置いた。
「オーケー。でも、オーダーメイドのアクセサリーは、けっこうお金かかるよ~?」
ルイカはにっこりと笑った。
「構いませんわ。いくらかかっても」
「本当~?いいお客さんゲット~。ラッキィだなぁ。俄然がんばっちゃうよ~」
「三日以内にできますか?」
「三日?」
ツクーヨは首を傾げた。
「まさか。我が店のもっとーは、早い、安い、うまい、だもの。こんなちっこいの、半日でできなきゃ店たたむ。権利書かけてもい~よ~」
「なら良かった。放課後にはできてるんですね?」
「オーケー、オーケー。任せてよ。ホノカのお友達には、特別サービスしちゃうよ~」




